第114話仕事大好き女(4)(完)
たか子自身がどうしようもなかった。
仕事はそんなに休めるわけでもない、そうかと言って医者に出向くほどの体力などはない。
この状態では、思いがけなくも来てくれた晃に頼るしか方法がないのである。
「ごめん・・・晃君・・・マスクして入ってね」
新入社員でロクに仕事もできない晃に頭を下げるなど、普通なら考えられない。
少々、部屋の乱れや化粧無の顔を気にしながら、ドアを開けた。
「オジャマします」
晃のキチンとした頭の下げ方にドキンとするし、申し訳も無くも思う。
「片付けが出来ていないけど」
確かにフラフラで、そんな余裕もなかった。
言い訳は・・・しないでもわかると思った。
「いえ・・・大変でしたね・・・心配しました」
晃は、多少部屋の中を見るけれど、気にしていない様子。
やさしい言葉の響きに、少しホロッとなる。
「ありがとう・・・」
もう少しお礼を言いたいところだけど、咳き込んでしまうので続かない。
「おでこ・・・絆創膏、転んだんですか?」
晃は、おでこの絆創膏を見ている。
「あ・・・ちょっと・・・」
恥かしくて声も出ない。
化粧無の顔を見られるのだけでも恥ずかしいのに、おでこの絆創膏を見られるなんて、熱もあがってしまいそうになる。
「少しずれているから、貼りなおします」
晃はここでも言い切ってしまった。
そしてテーブルの上に出しっぱなしの絆創膏を取り、近づいて来た。
「変な抵抗しないでください、病人で怪我人ですから」
晃はずれた絆創膏をはずし、新しい絆創膏に貼りなおした。
「うー・・・」
たか子は、ますます真っ赤になってしまう。
ここでお礼を言おうにも、またしても声がでない。
そんなことをしていると、往診医が到着。
晃が簡単に、たか子との関係を説明し、診察開始。
「過労からくる体力低下、風邪ですね」
「3日から4日、お休みになれば大丈夫」
往診医は注射をして、薬と絆創膏などを置いて帰った。
「明日、会社には報告しておきます」
「少し休んでください」
たか子が頷くと、晃はホッとした様子。
「それでは・・・たか子さん、お大事に」
晃が帰ろうとするその時、たか子が呼び止め、1枚のメモを渡した。
「声が出ないのでごめんなさい」
「次の通勤の日に連絡するから、一緒にお願い」
「それから、仕事以外で、お礼がしたいの」
晃は、ウィンクで返した。
仕事大好き女と、新入社員の奇妙なカップルの誕生の一瞬である。
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