第113話仕事大好き女(3)

インタフォンに触れるのも、晃としてはドキドキする。

出来れば、不在であればいいとまで思う。

他に手を上げる人もいなかったから、ほぼ仕方なく手をあげてしまった。

しかし、ここで帰るわけにはいかない。

目をつぶってインタフォンで話しかけた。


「こんばんは、晃です、たか子さん、いらっしゃいますか」

少し間があった。

ほぼ、20秒ぐらい。

30秒過ぎたら、このまま帰ろうと思ったけれど、声が返って来た。


「・・・晃君?わざわざ来てくれたの?」

「ごめんね、熱も出ていて、倒れちやって、スマホも充電忘れていて・・・」

「少し充電したから電話しようと思った・・・でも、その前に声が出ないの」

本当にガラガラ声が返って来た。


「そうですか、心配しました」

「会社・・・少し休みますか?」

慎重に、あくまでもビジネスの話に限定する。


「うん・・・ごめんなさい」

「明日は私から会社に連絡をします」

たか子は、ここでひどく咳き込んだ。


「お薬はありますか」

「解熱剤とか咳止めとか、その前に病院は行けますか?」

晃は、すごく心配になってしまった。

日頃、叱られ続けているが、先輩は先輩である。

他の女性社員が言うほど、嫌っているわけではない。


「そんな・・・いいよ、晃君に負担掛けたくない」

「移しても悪いし・・・」

たか子の声もふらついて来た。


「たか子さん、今日ぐらいは僕のいう事を聞いてください」

「すぐに往診医を手配します」

晃は言い切ってしまった。


インタフォンの向う側で、たか子の泣き声が聞こえてきた。

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