第110話春の夜の闇
まだ2月
早春とはいうものの夜は寒い。
ほのかな灯りに導かれたのか 寒さに耐えかねたのか
見知らぬ小料理屋に入った。
「とりあえずお酒」
「温かい食べ物を何か」
「はい、かしこまりました」
女将がやっている店なのだろうか。
それにしては、少し若め、引き込まれそうな可憐な白い肌をしている。
少し待っていると
お酒とお椀が置かれた。
お椀の蓋を取る。
「湯葉の卵とじなど」
「お寒そうでしたので」
「ありがとうございます、大好きな・・・」
本当に美味しい、その美味しさに、どこか懐かしさがある。
「美味しそうに飲まれ、お食べになられると 幸せです」
「はい、またこの店にゆっくりと」
お酒と湯葉の卵とじだけで満足してしまった。
「はい、お待ちしております」
「忘れないで来てくださいね」
少し後ろ髪を引かれたけれど、寒かったので、そのまま帰った。
一月後、その店を思い出した。
そして、そのほのかな灯りを探した。
しかし、記憶に残る場所にその店はない。
気になって翌朝、その場所をもう一度探してみた。
そして、不思議なことがわかった。
その店の場所には、既に花が散り終えた梅の古木が立っていた。
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