第108話ルチアとジャン(帰還)(完)

ジャンはシチリア島シラクサの温暖な気候と豊富な食事もあり、順調に回復した。

ジョバンニ神父から渡された旅費も、ジャンが今までジョバンニの教会に寄付した金額の2倍どころか、それ以上の高額を渡された。

そのため、ジャンは金額の多さを不思議に思い尋ねてみた。


「いやいや、全ては神の思し召しとお考えに」

「ジャンの神に対する信仰を神が認めたのです」

「返してもらうわけにはいきません、神のお考えを果たすための手段と受け取っていただきたい」

ジョバンニ神父はそれ以外には言わない。

結局、聞き出せないまま、手紙の宛名も内容も知りえることもなく、ジャンはナポリに帰還をすることになった。


「海の旅とは違って、何もないなあ」

ナポリへの道は、ジャンがたびたび、あくびをするほど順調、本当にスムーズにナポリに帰還することが出来た。


「さて・・・ナポリに着いた・・・と・・・」

「本当はルチアのところに最初だけど、そうはいかない」

「この手紙を届けなくてはいけない」

「何しろ、命の恩人で、旅費も信じられないほど余分に出してもらった」

「それだけは、裏切るわけにはいかない」

ジャンは、手紙の封を切る場所を探した。

こういう大事な手紙は、それなりの場所で開けなければならないと考えたのである。


「・・・となると、教会だ」

ジャンは教会で手紙を受け取ったのだから、教会で開けようと思った。

そのまま何も考えず、教会の中に入った。

聖母マリアの像の前の椅子にしっかりと座り、そして、手紙の封を切った。


「さて・・・宛名は・・・」

「・・・え・・・」

宛名を見た途端、ジャンの脚が震えた。


「我が愛しい姪 ルチアへの結婚祝い」

ジャンは、宛名の下に書かれていた小さな文にも目をやった。

「ルチアの愛しい将来の夫、ジャンに託す」


「ルチア!」

ジャンはもう我慢が出来なかった。

一秒でも早くルチアの顔が見たかった。

椅子から、飛び上がるようにして立ち上がった。


そして、教会を出ようと振り向いた瞬間


「ジャン!」

ルチアが飛びついてきた。


「その手紙をジャンが持ってくること、ジョバンニおじさんからとっくに手紙でもらってあるの・・・」

「どうせ、ジャンのことだから、教会で手紙を開けると思って・・・」

「途中で見かけたけれど、どんどん教会に入っちゃうし!」

ルチアはジャンにむしゃぶりついて泣いている。


ジャンは思いっきりルチアを抱きしめた。


「それから、お金を余分にもらったでしょ?」

「返せないぐらいでしょ?」

ルチアは驚くことに、お金の話まで知っていた。


驚くジャンにルチアは続けた。

「手紙の中身も知っているよ!」

「神の御意思として、ジャンの船乗りは禁止させて欲しいだって!」

「神に命を助けられたのだから、ここの教会で働くようにって書いてあるはず」

「だからしっかり勉強してね!」

「ああ、やっと安心だ」


ルチアは言い終えて、ようやく安心した顔になっている。

                            

                             (完)




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