第107話ルチアとジャン(救出)

ジャンが目覚めたのは見覚えのある教会だった。

おそらく、シチリア島のシラクサに間違いはない。

いつもシラクサに立ち寄っては、献金をしてきた記憶がある。

ただ、目が見えるようになっただけで、身体は痛みがひどく、とても動かせない。


「生きていたのか・・・目が見えて痛みがある」

死んでいれば目は見えても、痛みはないはずだ。

ジャンにとっては、痛みが本当にうれしかった。


「お目覚めですかな、ジャン」

少し目を開けていると、それに気づいたらしい。

これまた馴染みの神父ジョバンニが声をかけてきた。


「あの・・・船は・・・」

駄目だとは思ったけれど、聞いてみた。

案の定、ジョバンニは首を横に振る。


「いやいや・・・ジャンが打ち上げられただけでも奇跡です」

「全ては・・・」

ジョバンニはそこまでしか言わない。

ジャンもそれ以上は聞かない。


「それから、ジャン、身体を直したら、すぐにナポリに戻っていただきたい」

「頼みもあるのでね」

ジョバンニは船の結果については何も言わない代わりに、違う話をしてきた。


「ナポリにすぐに戻す」「頼みもある」

そんなことを言われても、ジャンにはよくわからない。

「とおっしゃられますと・・・」

どうしても、聞きなおすことになる。


「このシラクサで、私がジャンを助けられたのも、神の御心だと思うのです」

「ですから、ジャンも誰かを助けて、神の御心に答えていただきたいのです」

「つまり・・・ナポリに住む私の知りあいに手紙を届けていただきたいのです」

「旅費は、今までジャンから受け取った寄付の2倍をお渡しします」

「ああ、それから、ナポリに着くまで、宛名と中身は見ないように願います」

神父ジョバンニの真摯な話し方に、ジャンは否応もない。

身体が動くようになるまで、教会で療養し、ナポリに帰還することになった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る