第106話ルチアとジャン(難破)

空一面、恐ろしいほどの黒雲。

凄まじくなるばかりの風。

ナポリから積んできた品も全て捨てた。

あっという間に悪魔のような高い波が船の全部を飲み込んだ。


「ルチア!」

ジャンは思いっきり叫んだ。

もうこの状態になったら船長に声などはかけない。

ルチアの顔をもう一度見ることなど、とうにあきらめている。

せめて、ルチアの名を呼び続け、海に沈みたかった。

命の最後に、どうしても「ルチア」に声をかけたかったのである。


そして船は波の中で大破、ジャンの身体は海中をあてもなくさまようことになった。







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