第105話ルチアとジャン(出航)

「今度はいつ帰るの?」

ルチアは、既に泣き崩れている。

「それは、正直わからない」

ジャンはそれ以外に答えようがない。

ナポリからビザンティンまでの船旅、風向きも時折わからなくなるし、最近はイスラムの海賊も多い、何しろ危険な旅になる。

「どうしても、行かなければならないの?」

ルチアはいつもの「駄々」をこね始めた。

こうなると、本当に始末に負えなくなる。

出航の時間も迫っている。


結局、ドアも荒々しく締め、旅立ちのキスも、「そこそこ」になってしまった。

しかし、それはいつも同じ、なかなか上手に出発はできない。


「ごめんな・・・全ては、海神ポセイドン次第なんだ」

ジャンは、ようやく乗れた甲板の上で、必死に手を振る港のルチアに微笑みかけたのである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る