第98話バレンタインデーの失恋
午後7時半、美佳はカウンターの前に座るなり泣き出した。
「マスター!あいつったらね!」
マスターに必死に訴える。
「あいつって・・・この間来た彼ですか?」
マスターは、慎重に確認をする。
「もう!マスター!あいつしかいないって!あいつ以外にあいつなんて言わない!」
美佳の口元は「への字」になった。
既に大泣きになる寸前の状態である。
「で、そのあいつが、何か失礼なことを、美佳さんに?」
マスターはここでも慎重である。
「・・・いや・・・失礼とか言う前にさ・・・」
「だって、今日はバレンタインデーだよ?」
「それなのにさ、あいつはさ」
美佳は、もはや涙ぽろぽろ状態である。
「チョコレートですか?バレンタインデーとすると」
「渡せなかったとか、他にトラブルでも?」
マスターは、まだまだ慎重な物言いである。
「そんなね、チョコも何も・・・」
美佳は突っ伏して泣き出した。
「もしかして、どこにいるのか、わからないとか?」
「つかまらないんですか?彼が」
マスターは声を少し低くした。
少しため息をついている。
「絶対、あいつは誰かとデートしてるって・・・」
「だから私のコールなんかに出ないんだって!」
「あーーーー!どうしてバレンタインデーに失恋するの?」
美佳は、もはや顔を上にあげられない。
少し美佳の泣き姿を見ていたマスターがクスッと笑った。
「ところでね、美佳さん、これはわかります?」
「きのう、あいつって人ですかね、酔って忘れていったんですけれどね」
「ああ、違ったらごめんなさいね」
マスターはカウンターの下の引き出しをあけたようだ。
そして、その中から「何か」を取り出し美佳の前に置く。
「え・・・」
「何・・・」
美佳の顔が少し上に向いた。
そして、その顔が真っ赤になる。
「あのバカ男!」
「こんなところにスマホ忘れて!」
置かれたのは「あいつのスマホ」だった。
「それじゃあ、連絡を取りようがないですねえ」
「でも、さっき店に電話が来ましたよ」
「午後8時に取りに来るって」
マスターは慎重な物言い。
またしても美佳の表情が変わった。
「マスターもバカ!」
「あと10分しかないでしょ!」
「お化粧なおさなきゃ!」
美佳はものすごい勢いで、化粧室に消えた。
こうして、美佳のバレンタインデー・プチ失恋は終了となった。
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