第95話暴言レース編み女の恋(3)

ビアンカが待ち焦がれた一週間後、フィリッポが店に入ってきた。

しかし、いつもとは雰囲気が違う。

フィリッポが、にこやかなことは同じであるが、お供の人間だろうか、立派な服を来た妙齢の男女を連れている。


「あ・・・いらっしゃいませ」

暴言女とまで言われたビアンカは、あろうことか嚙んでしまった。

何しろ、今までの勢いも何もない。

フィリッポだけでも緊張するのに、立派な服を着た人など、この店に入ってきたことはない。


「そうですか、あなたがビアンカですか」

突然、立派な服を着た女性のほうから声をかけられた。

その女性は、マリアと名乗った。

少し、涙ぐんでいる。


「あ・・・はい・・・」

きつい目で見られたことはあるが、涙ぐまれたことなど初めてである。


「そうですか、苦労をかけたねえ」

今度は男性のほうから声をかけられた。

男性はジョヴァンニと名乗った。


「え・・・苦労とは・・・」

「それに・・・もしや・・・」

ビアンカはガタガタと震えている。



「うん、君の思う通りさ」

震えるビアンカの肩を、フィリッポが抱いた。

「この人たちは、やっと追放が解けたメディチ家の人間」

「特にこのマリアはビアンカの母クラリーチェの姉、つまり君の叔母さんにあたる」

「うん、二人とも、かの大旦那ロレンツォ・デ・メディチの娘さ」

フィリッポは本当に恐ろしいことをこともなげに言う。


「そして・・・ビアンカは・・・」

フィリッポはビアンカの耳元で、さらに「何か」をささやいた。


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