第94話暴言レース編み女の恋(2)
ビアンカの願いが通じたのか、一週間後に、その学者は店に入って来た。
「いらっしゃいませ」
ビアンカとしても、滅多にないほどの愛想をふりまき、ご挨拶である。
「はい、この間のレース編みがとても良かったので、お邪魔しました」
学者はフィリッポと自己紹介までして、やさしく微笑んでいる。
「・・・はい・・・評判が良かったなど・・・」
ビアンカは笑顔から真っ赤な恥ずかしい顔に変わった。
何しろ、文句は言い合っても、ほめられたことなどない。
結局、その日も何点か、レース製品を買い上げ、フィリッポは帰っていった。
「そんな・・・ほめられるなんて・・・」
自分でも必死に丁寧に編んでいる自負はある。
でも、全くの「白一色」、模様は多少工夫するものの、「色を使ったり、今の流行りの変わった模様にすると、どんな陰口を言われるかわからない」、そんな考えで質実剛健、どちらかと言えば地味な作品作りを徹底していたのである。
「少しは、流行りの・・・」
「フィリッポなら買ってくれるかもしれない」
「子供のころに摘んだピンクの花を刺繍して」
「そうだ、フィリッポだけに作ろう」
本当に、心をこめてフィリッポのためにハンカチを作った。
次の一週間は本当に待ち遠しかった。
「もし、急に今日来たら・・・」などと思い、化粧も控えめながらするようになった。
他の馴染みの客が来店した時も、接客は丁寧にするようにした。
「もし、万が一、変な噂を流されフィリッポが来なくなったら・・・」
と思うと、今までのような愛想のない接客などできないのである。
ただ、そんなことから、次第にビアンカの店の評判は良くなっていった。
「いったい、どうした風が吹いたんだろうねえ」
「今までの、高慢ちきな物言いが。全くなくなったよ」
「もともと、腕はいいんだからさ」
「ちゃんと私たちと付き合えばいいんだよ」
「そもそも、そんなに間違ったことは言っていないさ、物言いが厳しいだけ」
そんなことで、今までは文句を言われどおしだった近所のおばさんたちも、店で買い物をするようになったている。
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