第92話清楚な図書館司書葉子

毎日、大学図書館に通った。

もちろん、期末試験の勉強もしなくてはならない。

自分のアパートにいれば、すぐになまけてしまうことも理由の大きなもの。

ただ、それ以上に図書館司書の葉子に憧れていた。

葉子は、普段自分の周囲にいる、やかましくて元気なだけの女子大生どもとは、全然違う。

とにかく清楚な雰囲気、しっとりとした笑顔、言葉遣いも丁寧。

図書館内なので、ほとんど話などできないけれど、図書館に入って葉子の顔を見るだけでも、心が落ち着く。

少しでも「接触」をしたくて、試験とは関係のない本も借りた。

でも、それだけ、「まさか、それ以上に進む」兆しなど、何もない。


「一度はゆっくり、個人的に話がしたいなあ」

「でも、かなり年下だし、学生だから相手にされないかなあ」

「もう、好きな人がいるのかなあ」

「葉子さん、きれいだから、ライバルが多そうだ」

「他にも、毎日来ている学生もいるだろうし、特段目立つ俺でもなし」


結局、なかなか「個人的な話などできない」まま、期末試験は終わってしまった。

「借りていた本」も返すことになる。

それでも「ダメでもともと」葉子さんに、声をかけてみようと思った。


「あ、この本面白かったです、ありがとうございました」

少し噛んでしまった。


「あら、珍しいですね」

「こういうの好きなんですね」

葉子さんは、にっこりと笑う。


「・・・フランス散文詩・・・好きです」

ドギマギしてしまった。


「私も、大好きですよ」

葉子さんは、ウィンクまでしてくれた。


・・・そこまでだったけれど、その夜は眠れなかったし、ちょっとだけ触れた右手の指先は、お風呂にも入れなかった。




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