第91話華奈の涙

「あら、行かれないんですか?」

腰を揉む華奈の指は、いつもより力が無い。

言い方もツンツンしている。


「行くってどこに?」

どうにも華奈の言っている意味がわからない。

ちゃんと目的先を告げてもらわないと、質問に答えようがないではないか。


「・・・そんなこと・・・私に言わせるんですか?」

「どうして、そんなに意地悪なんですか?」

華奈の言うことは、ますますわからない。

わからないから、黙っていた。




「・・・大学寮の・・・」

しばらく黙っていると、ようやく華奈がポツリ。

つまり、大学寮の上役の娘との縁談を気にしているらしい。


「はっ・・・バカバカしい・・・」

「そんな気はないって」

事実、全く乗り気がしない。

その娘に会ったこともないし、政変が多い平城京では、政略結婚で出世を狙うなんて、「賭け」に近い。

そんな「賭け」なんぞで、日ごろの必死の努力を無駄にしたくないのが本音である。

それより、政争する両方から請われるような「実力」を身につけるほうが、余程自分に合っている。


「ところでさ、華奈」

意地悪と言われついでに、少し意地悪を追加しようと思った。

声も少し低くした。


「・・・はい・・・何ですか」

華奈は、指を止めてしまった。


「出掛けてもらいたいって思っているの?素直に言って・・・」

わざと、ゆっくり言った。


「・・・嫌です・・・」

途端に華奈は、涙声になった。



「・・・まったく、毎日腰を揉んでいる主人の気持ちがわからないなんて・・・」

「そんな、変なことを言った華奈に、ちょっとお仕置きをするぞ」


「え・・・」


「一晩中だ、子供が出来るまで・・・」

華菜を組み敷いた。



「・・・お仕置きじゃないです・・・」

「これじゃ、ごほうび・・・」

華菜は、泣きながら、むしゃぶりついて来た。

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