短編集

第89話お地蔵さん

お地蔵さんに会いたくなった

道端の　石のお地蔵さん

いつも　笑って立っている

「こんにちは」

お地蔵さんも　

「こんにちは」

笑っている。

しばらく黙っていたら

「どうしたんですか？」

お地蔵さんの声が聞こえた

「仕事でしくじりましてね」

「おやおや・・・」

「でも　いつか　何とかなりますよ」

お地蔵さんは笑っている。

「仕事しくじったら、彼女にふられました」

「おやおや・・・」

「でも、いつか　何とかなりますよ」

お地蔵さんは笑っている。

「ちょった泣きたいんですけれど」

「おやおや・・・」

「わかりました」

「この地蔵が涙を拭きましょう」

「あなたが拭いてっていうまで　ここに立っていますよ」

お地蔵さんは笑っている。

しばらく泣いていたら、少しすっきりした。

「お地蔵さん、ありがとう」

お礼を言った。

「いえいえ、またお話に来てください」

「どんなことでも聞きますよ」

「また　頑張ってください」

「うまくいっても　失敗しても　お話ししましょう」

「いつでも待っています」

お地蔵さんは笑っている

もう一度お礼を言って、数歩歩いた。

お地蔵さんに振り返ると

袈裟が少し濡れていた。