第76話ジェラシー(1)

「どうして今日子先輩とばかり話していたんですか?」

明らかに怜奈は怒っている。

「そんなこと言ってもさ、楽譜を貸してくれるって言うから」

史は、少し慌てた。

そんな程度で納得する怜奈ではない。

案の定、追撃が来た。

「そうやって、今日子先輩の部屋まで行くんでしょう!」

「ダメです、認めません!」


「いや、先輩に持ってきてもらうのも失礼だから、お借りしに行くのが筋さ」

「部屋まで入らないよ、さすがに」

史は、必死に抗弁。


「ついて行くかなあ」

怜奈は、まだ、納得しない。

おまけに「ついて来る」とまで、言っている。


「・・・て・・・何で、そんなに怒るの?」

「ところで、恋人だっけ?」

史は、「そもそも論」を持ち出した。

電車が一緒なだけ、駅だって怜奈が先に降りる。

それに、今日子先輩のアパートとは、逆方向。

既に夜だって遅いし・・・

何故、怒るのかもよくわからない。


「で、どうしても今夜なんですか?」

怜奈の口調にトゲがある。


「・・・うん・・・今からなら終電に間に合うしさ」

史は必死に抗弁を続ける。


「じゃあ、終電に間に合わなかったら、どうするんですか?」

こうなると、まるで詰問である。

怜奈の顔が怖い。


「だいたいね、この寒い夜に風邪気味の史さんに、おいでって変です!」

「絶対、何かたくらんでいます」

「最近、ずーっと今日子先輩、史さんにベッタリしていたし」

「その前は、失恋って言ってたから」

「絶対狙われているって!」

「もーーーー!どうして年増女に騙されるんですか!」

怜奈の発想は、既に妄想に近い。

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