第75話マスターの子

涼子はずっと隠していた。

わかったのは一月前、一応心配になって病院に確認に行った。

「おめでとうございます」

医者からは、笑顔で言われた。

涼子は、本当にうれしかった。


ただ、マスターには言えなかった。

「男と女の仲だけど・・・籍をいれていないし」

「マスターは女と暮らしたことはあるけれど、籍を入れたことはない」

「・・・でも私は・・・」


そうは言っても、体調を崩すことも多くなった。

それには、マスターが気づいた。

「おい、大丈夫かい」

「病気かい?」

「熱は?」

様々、心配をしてくれる。


涼子は、その心配がうれしかった。

「え・・・と・・・病気じゃないよ・・・」


「病気じゃない?」

はじめてみるマスターのキョトンとした顔。


「うん・・・」

涼子は、目を閉じた。

目を閉じないと、伝えられない。

「ここ・・・」


「え?・・・」

「涼子!」

マスターは、ゆっくりと涼子を抱いた。


「ありがとう・・・涼子・・・」

真正面にマスターの顔がある。


「今、動けるか?」


「え?はい?」


「行くぞ!籍を入れに行く」

マスターの声は、いつにもまして力強い。

涼子はマスターの手を思いっきり握った。

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