第69話港町の少年奴隷(3)

少年奴隷アドニスが、ヘレンに買い取られて三か月が経った。

日々の「おつとめ」にも、かなり慣れた最近であるが、とうとうアドニスの身体に「変化」が起き始めた。


それを毎日「観察する」ヘレンの表情にも、少し変化がある。

時には顔を赤らめ、時にはため息をつく。

また時には含み笑いもする。

しかし、ヘレン以外の「女」と口を聞くことさえもしなくなったアドニスには、ヘレンの態度の変化の「意味」がわからない。


ただ、アドニス自身にとっては、「火の出るような恥ずかしさ」が、日々増していることだけはわかった。

それでも「夜のベッドのお供」を命ぜられることもない。

ヘレンの「観察」の後は、今まで通り、平穏で静かな生活を送ったのである。


そんな生活を続けていたヘレンとアドニスであったが、今度はヘレンの表情に大きな変化が発生した。


とにかく暗い。

バルコニーから海を眺め、夕方までそのままの日もある。

あるいは、夜中に突然飛び起き、バルコニーから海を眺め続けることもある。

日々のワインの量も、かなり増えた。

しかし、食事の量そのものは、全く増えない。

時にはワインだけを飲み、様々豪勢な料理そのものを捨ててしまうこともあった。


見ているアドニスも、不安になった。

微笑みはあっても暗い表情は無かったヘレンである。

自分の「御世話」の仕方が悪いのか、本当に不安だった。

しかし、なかなか主人に問うだけの勇気はアドニスにはない。


ようやくわかったのは、ヘレンと街に出かけた時の噂話である。


「ヘレンの婚約相手の船が海賊に襲われ、沈んだらしい」

「もちろん、婚約相手も死んだ」

「なかなか、ヘレンの家の家格にかなう商人もいない」

「これは、難儀だなあ・・・」


ヘレンは、車内でワインを飲み過ぎ、既に眠っている。

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