第67話港町の少年奴隷(1)

地中海沿岸の港町では、常に壮年の男が不足する。

それには、二つの理由がある。

まず一つは、壮年の男たちの多くが長期の航海に出向き、交易業に従事しているため。

もう一つは、その仕事の性格上、海難事故に遭うことが多く、結果として命を落すことが多いためである。


そんな地中海の島シチリアの港町シラクサにマルセイユから一人の少年が奴隷として、運ばれてきた。

少年の名前は、アドニス、年齢は十二歳ぐらい。

しかし、その名前は、親がつけた名前ではない。

少年の両親から「借金の支払い」として買い取った奴隷商人が、少年の美貌を気に入り、ギリシャ神話由来の美少年の名前を付けたのである。


美貌のアドニスには、奴隷市場のステージに立った途端、買い手が殺到した。

壮年の男がいないのだから、買い手は当然、女になる。

女たちは、アドニスの着ている服を全て脱がせ、その全身をくまなく愛でた。

全裸にされ、恥ずかしがるアドニスの姿も、女たちの興奮をたかめた。

客席で、アドニスを欲しがり、取っ組み合いの喧嘩をする女たちも出てきた。


ようやくアドニスを買い取ったのは、裕福な交易商人マルクスの娘ヘレンである。

年齢は、24才、ヘレン自身もかなりな美貌の持ち主である。

価格も2000デナリ、庶民の年収にすれば、およそ4年分、少年奴隷としては破格なものとなった。


「さあ、アドニス、こっちへ」

アドニスは、ヘレンの邸宅に着き、ようやく服を着せられ、ヘレナの前に立った。

「はい、ご主人様」

アドニスは、まだ震えている。


「大丈夫、アドニス、心配しないで」

「まだ、夜のベッドは求めないから」

ヘレンの顔も声もやさしい。


アドニス自身が、その「仕事」は、まだ無理だと思った。

そもそも、そんな「経験」もない。


そこで、心の底からホッとした。

同じような少年の奴隷仲間から、「夜のベッドで失敗」して、半殺しか、それ以上の罰を与えられた話を、さんざん聞かされてきたのである。



「でも・・・何か、あったら、すぐにベッドに来てね」

ヘレンは、アドニスの頬をキュッとつまんだ。







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