第57話二人妻(2)
男は懸命に昔からの女を探し歩いた。
なかなか見つからなかったが、既に平城京を離れ遠い縁者の住む明日香の里にいるらしいとの噂が届いた。
男は、仕事の休みをもらい、昔の女の住む明日香に出向いた。
「ここか・・・」
家というのには、あまりにも、みすぼらしい。
ただ、雨風がしのげる程度に過ぎない。
「戻っておくれ」
男は、心の底から懇願した。
何より女が自分の前から姿を消すことが、寂しくて仕方がない。
しかし、女は首を縦に振らない。
「いえいえ、その御心だけで、十分でございます」
「今まで、おそばにおいていただいただけでも、ありがたいことで・・・」
「せっかくの御縁を無駄になさらぬように」
「貴方様のご出世の噂だけを楽しみに、これからは生きてまいります」
男が何度懇願しても、言葉を変えない。
男も仕事をこれ以上休むわけにはいかない。
「また、必ず、ここに迎えに来る」とだけ言いおいて、都に戻る他はなかった。
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