第55話小学生時代のアイドル隆
隆は、小学生の時から、身体の成長が人一倍早い上に、運動神経抜群、体育の授業や特に運動会では花形選手。
クラス女子は当然、学校内からの人気を一人占めしていた。
また、面倒見も良かった。
特に自分より運動能力が劣る相手には、熱心に練習に付き合ったりした。
「俺について来れば、大丈夫だ、上手にしてやる」
そんな隆を頼って、仲間入りをする男子生徒も多く、小学校卒業時には「取り巻き」もかなり拡大、小学校の校長でさえ、その統率力から一目置く存在にまでなっていた。
しかし、中学入学以降は、異変が起きた。
同学年の男子たちが、少しずつ身体も成長し、隆とほぼ同じか、追い越す者も出てきたのである。
体育の授業でも、小学生時代には考えられなかった、「競争で一番が取れない」事態が頻発した。
また、柔道の授業でも、簡単に投げられてしまうこともあり、かつての「運動会の花形」の面影は、自然に無くなってしまった。
それと比例するように「取り巻き」も、隆の周りを離れて行った。
何より、運動面で隆に面倒を見てもらうなど、何ら必要としないからである。
また、隆は勉強が苦手だった。
何しろ、授業のノートを取ることが面倒でしかたがない。
それで、小学校時代からの同学年女子に、ノート貸しのお願いをしても、なかなか色よい返事もなく、最近はキッパリと断られることがほとんどになった。
「隆ってミジメだよな」
「小学生の時は身体も大きかったしさ、それはかっこよかったけれど」
「面倒も見てくれたけど、あれは隆の自己満足だよな、今から考えるとさ」
「ああやって、先生受けとか狙ってたに決まっているし」
「今は身体の成長も止まり、勉強嫌いじゃ、中学では通用しないよね」
「何か頼むにしたって、もう少し謙虚にしないとさ・・・ノート貸すの嫌だ」
「いつまで親分気分なんだ、誰も子分なんかいないのに」
そんな声が、隆がいてもいなくても、囁かれるようになった。
隆も次第に落ち込むようになり、学校を休むことが多くなった。
そんな隆の落胆生活もかなり続き、冬になっている。
そこでまた異変が起きた。
三日も「風邪」で休み、顔を大きなマスクで覆い、下を向いてようやく登校、自分の席に着いた隆の隣に、一人の女子が座った。
小学生一年生の時、最初に隣に座った純子である。
「ねえ、隆君、元気出してよ」
「ずっと小学生に入った時から一緒だよ」
「途中で全然声が掛けられなくなったけれど」
「元気が無い隆君って辛いの」
「・・・みんな・・・言い過ぎだよ・・・」
「隆君って、何も悪気が無いのに」
隆は涙が出てしまい、何も応えられなかった。
「今日は、一緒に帰ろうね」
「一緒に勉強しようよ」
純子の優しい言葉に、隆は頷くことしかできなかった。
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