第47話カルドヴァス

既に冬至は過ぎ、日も長くなるというのに、西新宿の夜風は、身体ばかりか、心の奥まで、凍えさせる。


「こんな寒い夜に来るのかしら」

麻紀は高層ホテルのラウンジで、男をひたすら待つ。

しかし、その顔は物思いがちに、ふさぎ込んでいる。


「麻紀様のご気分が優れないのも、かれこれあの晩からですね」

馴染みの女性バーテンダー圭子は、心配そうに麻紀の前にカルドヴァスのカクテルを置いた。


「うん、あれ以来、連絡は取っていない」

「でも、今夜は約束の日、確認のメールもないけれど」

麻紀はカルドヴァスのカクテルを口に含んだ。

少し涙ぐんでいる。


「でも、麻紀様だけが原因とは言えませんし」

圭子は麻紀の涙を心配した。


「いや、私が変な嫉妬をしたから」

「彼だって、仕事であの女優の取材をしただけってわかっていたのに」

「30分遅刻の連絡もあったのに・・・」

「あの女優さん、きれいすぎるしね」

麻紀は、本当に苦しんでいる。

周囲を見る力もないようだ。

ただ、カルドヴァスが半分残ったグラスを見つめている。


扉が開いた。

「あ・・・」

圭子は扉の方向を見ている。


「お見えになったようです」

「麻紀様の想いが通じたのかしら」

「やっと・・・これで」

圭子も少し落ち着いた声。



「え・・・」

麻紀の顔に赤みが帯びる。

しかし、麻紀は何を言っていいのかわからない。

それどころか全く、身体を動かすことすらできない。


「時間通りに来たよ」

「僕にもカルドヴァス」


圭子はカルドヴァスと白い封筒を男の前に置いた。

白い封筒の上にはメモが書いてある。


「ご依頼のお部屋のカードキーです」

「ダブルにしておきました」







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