第35話家具の移動

アパート隣の芳香の部屋から、ガタゴト音がする。

それも、ガタッと音がすると止まり、また少しして音がする。

おそらく、家具の移動か何かしているのだろうと思った。


「そうは言っても、手伝う義理もなし」

「英語の試験も近いし、厄介ごとに巻き込まれることもないな」

「おはようとか、そんな程度の挨拶しかしたことないし」

そんなわけで、ひとしきり勉強に専念。

よくしたもので、ガタゴト音もしなくなった。


「さて夕方だ、腹も減ったし、作るの面倒だ」

「あそこの野菜炒めでいいかな」

勉強も「まあ、なんとか」になったので、アパートを出ようとすると、隣の芳香も同時に出てきた。

こっちを、じっと見ている。


「え?何?」

声をかけると、手を合わせて拝んでくる。


「あの・・・手伝ってください」

「私じゃ無理」

腰を抑えている。

家具の移動で、痛めたのだろうか。


「えーーーっと・・・」

まあ、これも人助けかな、すぐ終わると思い、芳香の部屋に。


作業は、すぐに終わった。

ちょっとしたコツで、家具は動く。

芳香の顔はパッと輝いた。


「じゃあ・・・」

部屋を出ようとすると、腕をつかまれた。


「あの・・・私、何か作ります」

「助けてもらって、はい、サヨナラってわけにはいきません」

芳香は、真顔になってる。


「でも、腰を痛めているのでは?」

気になっていたから聞いてみる。


「ああ・・・えっと・・・少しだけ・・・」

「できれば、腰にシップを貼っていただけると・・・」

芳香は、顔が紅い。


家具の移動、それが、なれそめだった。

よくある話かどうか、わからないけれど、


これが「縁」というものなのかもしれない。



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