第22話作法

「綺麗でした」


「え?」

接待の食事を終え、帰りの電車の中である。

夜も10時を過ぎていたので、すぐに座ることが出来た。

薄く香るジャスミンが、彼女の魅力を増している。


「貴方のような若くて素敵な女性に綺麗と言われても・・・」


「若いといっても、二つです」

彼女は、ウィンクをする。


「お箸の持ち方とか」


「うん」


「お椀と箸の扱い方とか・・・」


「え?そんなこと?」


「お作法・・ずっと 見とれてました」


箸と器を一緒に扱う時は、右手で椀を取ったあと、左手で椀の底を支えて右手を離す。

箸は三手で、椀から離した右手で取る。

箸を左手で受ける際は、中指と薬指の間に挟む。

この後、右手で箸を正しく持ち、左手を離す。


何のことはない。子供のころから、しつけられただけである。

作法なんて、程度ではないと思っている。


「先付けとかお造りとか、煮物、焼き物、止肴、食事、水菓子・・・どうして、綺麗にお上品に、できるのですか?」

ほろ酔いの彼女 少し口調が強く感じる。


「いや・・・作法は、しつけられただけで・・・」

思い浮かぶ言葉は、それしかない。


「・・・ふぅーん・・・」


「・・・ふぅーんって?」


「女性に関しては?」


「え?」

意味がわからない。


「私、帰る電車が・・逆方向なの・・・」

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