第11話Calling You(1)痛み

かつて経験したことがない ひどい嵐だった。


既に何人も風にあおられ、海に落ちた。

海上では逃げ場が無い。

陸地も遠くなった。

濡れた甲板に足を滑らせ、身体は木の葉のように舞った

したたかに脇腹を打った。

痛い 2,3本といったところか 折れたか ひびか

口の中も切れたようだ 

血の味がする。

ドクドクと口にあふれる。

階段を転げ落ちるように船室へ

最後は尻もちだ。

頭は階段にぶつけ、腰もしたたかに打った。

身体全体が痛い。

すでに眼を開けることも難しい。

意識も もはや。



気が付くと船の揺れはほとんどない。

どうやら助かったようだ。

カモメの声が聞こえる。

陸地も近いのか。

脇腹と腰は動かせない。

眼をゆっくりと開ける。

船の階段が見える。

どうやら転げ落ちてそのままだ。

ボロボロのシャツが血まみれになっている。

口の中がキリキリと痛い。



「ん・・・」

何か固いものを握っている。

木彫りの小さなマリア像だ。


「あいつめ・・」

泣きすがって船出を止めようとした女の部屋にあった。

いつ、ポケットにしのばせたのか。

裏に女の名前が彫り込まれていた。


                       Calling You(2)不安に続く

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