第10話聞かせてよ愛の言葉を

突然寒くなった。

いや 毎日ヘトヘトになって帰っていたので、気がつかなかったのだと思う。

空の蒼さは深みを増し、木々は立派な紅葉、最後のあで姿を見せつけている。

こうやって取り巻く世界は いつものように変化していく。

こっちの様子などはおかまいなしに・・・


くだらない喧嘩別れをして何日になるのだろう

少しでも暇になると自分が動く音以外は、風の音、鳥の声ぐらいだ。

目覚めるといつもテーブルに置いてあった焼き立てのクロワッサンとカフェオレ。

そんなものは、あいつがいなくなってから何もない。

数日前に買って置きっぱなしのビスケットも あと2枚しかない。

それでも仕事に行く時は、時間ぎりぎりの地下鉄の売店で何か買えばいい。

時間が間に合わなければ朝飯など食べなければいい。

仕事の忙しさで空腹など紛れる。

昼食だって同じようなものだ。

夕飯は、帰りがけに酒屋で一杯ひっかけて、何かつまめば十分だ。

家に帰ればシャワー多少寒いが、後は寝るだけ。

あいつの買った頑丈な洗濯機が、あいつに負けない強情さで働いてくれる。


「少しやせたんですね。」

秘書の心配そうな顔が浮かんだ。

大きなお世話だ。

秘書は仕事の心配だけすればいい。

余計な噂となっているらしいが・・・

それが下らぬ喧嘩を招いた

そんなやり取りを思い出す。

どうも、自分で入れたカフェオレは味が濃すぎる。

余分なことを思い出してしまう。


そういえば先週から咳き込むことが多くなった。

いつも咳をしだすと長引く。

イライラするともっと長引く。

体調も、秘書の言うように落ちているのも本当だろう。

認めたくはないが・・・

まあ、こんなつまらん人生

いつ終わってもどうでもいいか・・

酒場から、かっぱらってきてしまったコニャックでも飲んで寝てしまおう

まだ朝の7時だ

これだから休日の朝は好きだ


「ぐぅ・・強い・・」

さすが原液・・眠い

目が回る。

このまま どうなっても・・・




あれ・・・

なんでこいつが横にいるんだ?

いつのまに

こいつ 大っ嫌いって出て行って・・

夢だ 馬鹿馬鹿しい

うれしいなんて 思っちゃいけない

それにしても

寝返りが打てない

どうして

腕が巻き付いている

最近の夢は変な夢だ

おいおい

顔まで押し付けられる夢ってないぞ

こいつ・・泣いているのか

目のまわり・・・頬まで濡れている


「この馬鹿男」

「許さない」


「え?」


「え?じゃない」

「あなたには私しかいないの」


「夢じゃないのか・・・」


「馬鹿な上に鈍感」

「もう許さない」


「・・・・・」


「絶対に離さないってこと」

あっという間に唇をふさがれた。

しょっぱい涙の味がする。



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