切り取られた過去

 写真は好きじゃない。

 見えたものと写ったものが違うから。

 見えるものを切り取れないから。


 別に嫌いでもない。

 見えないものを映し出すから。

 掠れゆく記憶に、鮮明に訴えかけるから。


 僕は写真を撮る。

 撮られるのは嫌いだけれど、他人ひとを撮るのは好きだ。

 自分の目に映るものを切り取る作業であるそれに、自分の目には決して映ることのないものが写り込むことが嫌いだ。

 自分以外のすべてが、切り取る対象として正しい。

 自分だけが、切り取る対象として圧倒的に間違っている。


 結果がどうであれ、過程がどうであれ、切り取られてそこにある世界は、僕の視ていたものに近しい、けれども全く異なった世界。


 切り取るのが僕。

 切り取られるのが世界。


 誰かが切り取った世界それに僕がいたなら、その僕はではなくて、世界・・の一部だ。

 代わりに、僕にとって世界の一部であるはずの誰か・・が、になる。



 入れ替わり立ち替わり、その役を演じる。

 それに疲れたとき、僕はこの世界舞台から去ろう。


 僕が切り取った過去と共に。

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