シロウ、隠しごとですか?
レキと暮らし始めて二週間が経過した。
まともな食事の材料や俺の生活用品(歯ブラシとか
うまく言えないが、レキはバイトを止めるだろうと思った。……別にバイトを始めたからと言ってこの家から出てくわけじゃねえけど、あいつは嫌がるだろうと。でもバイトに受かっちまえばこっちのもんだし、何より、人の金で飯を食う生活にはそう簡単になじめない。俺はたしかにニートだが根っからの無職希望者ではねーし。
そういうわけで、レキが学校に行っている間にコンビニで履歴書とペンを購入し、下書きなしで履歴書を完成させた。ひどい出来だったが、まあいいだろう。コンビニってのはいつだって人手が足りないモンだ。よっぽどヤバそうじゃなければ誰だって雇いたいに違いない。コンビニまで行って電話番号をメモり、固定電話からかける。
「はいこちら、〇〇コンビニ△△店になります」
「あー、すみません、表のバイト募集の張り紙を見て電話しました」
「バイト希望ですか? オーナーに代わりますので少々お待ちください」
……声からして学生のアルバイターだろう。若い男子の声だった。それから数十秒の沈黙のあと、
「はい△△店オーナーの堀川です。面接希望者ですか?」
がらがら声の女の声。
堀川と名乗った女性オーナーは氏名、年齢を聞いたあと履歴書があるかどうか確認し、二日後の午後一時から面接を行うのでコンビニまで来てくださいと言って電話を切った。……微妙に不安要素は残るが、とにかく、面接の電話ができた時点でバイト決定はほとんど確定だ。二日後は金曜日は幸い平日でレキにもバレない。
帰宅したレキは意外にも聡く、すぐに俺の異変に気付いたらしかった。チンジャオロースを食べながら俺を見つめ、ぽつり。
「シロウ、挙動が不審なようですが」
「え、そうか?」
「隠し事、してませんか?」
首を
「……してる」
「いつか言ってくれるんでしょうか?」
今度は逆の方向に首を
「今週中には言えるよーになるぜ」
がっつりピーマンを口に運びながら言うと、レキは「ピーマン食べ過ぎじゃないですか?」と若干引いたような顔で返した。
それから二日、何事もなく静かに過ぎ……面接の日も本当に順調に面接が始まり、そしてそのまま終了した。堀川という女性オーナーは明るい茶髪にタバコのにおいがしていたが、俺にニートな理由を聞かなかったりクソ地味な私服のセンスをとやかく言うこともない、それなりに優しい女性だったと思う。人手が足りないから入れるなら来週から入って、と言われ、俺は「わかりました」とだけ答えた。
内心喜んでいた。これで一か月経てば生活費が入れられる。それに少なくとももうニートではなくなるわけだ。
家に戻り、レキの帰りを待つ。来週からバイトに行くことを言うタイミングはそれなりに選ばなければならない。つっても、俺が重く言うとレキも重く受け止めちまうだろうから、こう、なんつーか……サラッと言うのが一番いいよな。
世間話みたいな感じで。そう、聞き流されてもいいくらい自然に。さすがにレキもバイトくらいではそれほど動揺しないだろうけど。なんたって父親が彼女を連れてきても母親が泣きながら追いかけても泣かなかったんだ。……とは言え、少しも寂しがらなかったら、それはそれで悲しいかもしれないんだけどな。
……女子かよ、俺。
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