シロウ、涙もろいんですか。

 俺は動物モノに弱い。子どもが一人で行くおつかいとかにも。どう弱いかと言うと泣きそうになる。動物は犬、馬、あと猫にも弱いし、子どもの一人おつかいとか不安すぎて見てられねえ。かれたらどうすンだよとかスゲェ考える。

 だからレキとメシ(今日はレキが切った肉と俺が切った野菜の炒め物)を食いながら見ていた捨て犬ドキュメンタリー番組が終盤にさしかかったとき、俺の涙腺るいせんはかなり限界に近かった。だがレキは真顔でテレビを見ている。こいつ、悲しくねーのか。せっかく育ててくれた飼育係と引き離されるこの子犬の気持ちを考えたらツラすぎだろ……。あんなにクンクン鳴いて……クソッ、だめだ、泣く。

 すばやくティッシュを手に取り、目元をぬぐう。よし、レキにはバレてな……、

「シロウ、涙もろいんですか」

バレてた。クソ。気付いてねェふりとかしろよ。それが優しさだろうが。

「は?」

は? なんて強気に出てもさすがにごまかしはきかない。畜生ちくしょう

「あれですか。犬が大好きとか」

モシャモシャ、白菜を咀嚼そしゃくしながら言う。

「大好きってわけじゃねーけど」

「でも目が真っ赤です」

……こいつには心ってモンがねェのか? 大の男が子犬のドキュメンタリーで泣いてたらそっとしておくのが優しさであり気遣いなんじゃねェの?

「お前はどうなんだよ」

耐えられなくなって話のじくをレキに移す。

「動物は嫌いです」

「はあっ!?」

大声を出した俺にレキは少しびっくりしたようで、数秒ポカンとしてから、

くさいじゃないですか。うるさいし」

淡々と返す。動物が嫌い? だからこんな悲しいテレビを真顔で見れるのか。にしたって、動物が全部臭いなんてひどい偏見だろ……。

「や、くさくねえよ、ちゃんと飼われてるのは」

俺は一般的なペットのにおいについて述べたつもりだが、レキはまた少しの間黙り込んだあと、なんと、

「でも、シロウのそういうところ、子どもみたいでいいと思います」

と俺をフォローした。

 ……訂正。『おそらく』、フォローだ。しかしフォローベタにも程がある。そんなフォローでいったい誰が救われるんだ。こいつなりに優しさで言ったんだろうけど、

……や、どうだ? むしろこいつのことだから、思ったことをそのまま言っただけ、という可能性もある。

 俺は戸惑って、そうとう困惑して、どう返すべきかかなり悩んだあと、素直に

わりィけど、そのフォローのヘタさはちょっと問題だぜ」

と返した。

「改善しておきます」

レキは首をかしげ、野菜炒めを口に運ぶ。ホントこいつは変なヤツ。でも悪気はないんだよな。こんなんじゃ、生きるの苦労しただろうな。

 しかし、改善、な。


 ……この番組は毎週放送される。予告によると来週は片翼かたよくを怪我して飛べなくなったたかが完治するまでの密着ドキュメンタリーらしい。おそらく来週も俺は泣くだろうが、そしたらレキは、改善したフォローの言葉を俺にかけるのだろうか。

 それはちょっと、まあ、見物みものだな。

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