シロウ、私もそこで寝たいんですけど。

シャワーを終えて脱衣所に出ると、コンビニに売ってるような、簡易的に包装されたトランクスが脱衣かごに入っていた。まじか。まじか、あいつ。

「シロウ、それはあなたの下着です」

ドアごしにレキが言う。まるで英語教材を直訳したみたいな喋り方するな、こいつ。つーか俺、ボクサー派なんだけど。や、そこじゃねえよな。ホントこいつ……。

「これどうしたんだよ」

履きながら言う。……こいつに一番欠けてるもんがわかった。恥じらい、だ。普通は女が気にするもんだろうに、こいつがこうやって全然照れねえから俺が困惑してるんだ。バカかよ、女子高生に振り回されるって……今年で22になるのに。

「コンビニで買ってきました。男物の下着、うちになかったので」

女子高生一人暮らしの家に男物の下着がねーのは当然だろ。


クソ、キレたい。お前頭おかしいだろって怒鳴りてえ。でもこいつに悪気が全然ねえせいでキレにくいッ……。


下着だけ替えてリビングに出る。レキはテーブルについて宿題をしていた。おお……高校生っぽいとこもあんのか、ちゃんと。

「シロウ、好きなテレビ見ていいですよ」

レキが俺にリモコンをわたしてきたことで、今までテレビがついていなかったことに気が付いた。……俺が高校生の頃は宿題でも何でもテレビ見ながらだったけど、勉強熱心なやつだと集中するために、テレビは消したままにするのか。

「お前、優等生なんだ?」

半ば断定的に質問。レキはノートに顔を落としたまま淡々と、

「前回は200位くらいでしたよ」

とだけ答えた。200? こいつの高校は俺の卒業したとこと同じだけど、俺の記憶が正しければ一学年250人前後だったはずだぞ。

「何人中の200だよ」

「232人中ですね」

「ほぼ最下位じゃねーか!」

「できないんです」

頭よさそうな顔してるくせに、この野郎……。野郎ではねえけど。高校生だった頃の俺よりヤバいんじゃねーか? 俺だって勉強なんかできなかったけどそれでも真ん中くらいはいってたぞ。


「なんですか? テレビは嫌いですか?」

リモコンは持ったままで電源を入れない俺を不思議に思ったのか、レキがふっと顔をあげる。

「や……」

何か言おうと思うが、頭の中がごちゃごちゃで言葉が出てこない。なんだこいつ。なんだこいつ。なんなんだよ、こいつ……。

「もう寝ましょうか」

「や、お前、勉強……」

調子が狂うどころの話じゃねえ、俺じゃねーみてえ。

「いいんです。どうせわからないから」

レキはとくにふざける様子もなく、ただ事実だけを言うみたいに「ね」と首を傾げ、リビングの電気を消した。


寝室にはベッドが一つ。待てよ、この家、こいつの一人暮らしだよな? 俺はどこで寝るんだ?

「シロウ、ベッドに」

「俺がベッドでいいのか?」

「ベッドいやですか? ソファもありますけど」

レキはふしぎそうな顔で言う。あーもー、こいつの考えマジで読めねえ。何考えてんのか全然わかんねー!!

「や、お前がいいなら、……」

腑に落ちないままベッドにもぐりこむ。う、うわ、うげえ……このベッドめっちゃ、こいつの匂いすんじゃん。ああああ……。俺が心を無にしようと懸命になっていると「失礼します」とか言いながらレキもベッドに入ってきた。は!? なんだこいつ、ふざけてんのか!?

「てめっ、ふざけんな! 何のつもりだよ!?」

「何のって、私もここで寝たいんですけど」

「お前っ、お前な! ベッド使いたいなら最初からそう言えよ! クソッ……、もう俺ソファでいいわ、リビングにあるっていうやつ」


イライラしながら立ち上がると、レキが「シロウ」と感情のない声で俺を呼んだが、振り返る気にもなれず、そのまま寝室を出た。

……まだそんなに寒くなくて良かった。毛布とかなくても寝れんな、この温度なら。……そう思ってすぐ眠りについたが、起きるとそれなりに温かく、俺の体には毛布がかかっていたのだった。

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