変身

「ねえねえ今ヒマ?」


 振り返った私の顔は険しかったと思う。だけど敵も然るもの。そんなことで怯んだりはしない。


「お腹空かない? ごはん食べない? 奢るし」


 立ち止まった私に勝算アリと踏んだのか。突然のナンパはしつこく続く。ポンポン誘い文句が出てくるのは慣れてるせいだろうか。たぶん私が断ってもちっともめげずに次に行くんだろう。


 今日は美容師さんが髪をくるくる巻いてくれた。不器用な私は自分では可愛く出来ないから、たまにやってもらうと嬉しい。ついでにメイクもお願いして。ちょっとした変身気分でご機嫌だったのに。


「ねえねえどこ行く?」


「家」


「え?」


 とても低い私の声を聞いて初めて相手が怯んだ。


「さっさと帰って荷物まとめなさいよ」


 私はすたすたと歩き始める。



「う、わ。ちが、違うよ?」


「なんで今朝も見た顔が分かんないかな」


「分かるって! 冗談だって。マジで!」


「知るか!」



 慌てて追いかけて来たって許す訳ない。


 最低。大っ嫌い!

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