狂咲き

 幾度かの告白は全て冗談で躱された

 それはあなたなりの許容なのだろう


 私は感謝すべきだろうか

 いっそ花を散らしても向き合って欲しい

 そう望む私は間違っているのだろうか


 距離は随分縮まった

 昼食を共にすることが当たり前になり

 残業の後には駅までの道を並んで歩く

 けれど私が真剣な目を向けると

 あなたはすいと視線を外す



「あ」



 不意にあなたが立ち止まった

 視線を追うと、桜の枝に数輪の狂咲き

 月の光に照らされて秋風に揺れている



「風で葉が落ちたからですね」



 見上げながら私は言った



「開花を阻害する葉が落ちると花が咲くんだそうですよ」



 季節を間違えて咲く狂咲き

 それを咎める者などいるだろうか

 他と違うことの何が罪か


 何故

 咲きたい所で咲いてはいけない



 月明かりの下

 頑なに蕾を閉じる枝の先

 それはまるであなたのようだ


 その葉を毟れば、花は開くのか



「あなたを留めている葉は何ですか」



 さらさらと秋の風が吹く

 薄紅の花弁がそれに揺れる




 息を呑むあなたを



 ただ


 見つめる

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る