花筏




川沿いの桜は盛りを過ぎて半ば花を落としている


花間に見える蝦茶の葉は

まだ開かずに


過ぎようとする春にしがみついていた



並木の下でふと足を止め


天を仰ぐ



ソメイヨシノは嫌いだ

あれは

歪な花だから



涙のように降り注ぐ花びらに


歪んだ顔が重なった




五期下のそいつは


快活で

裏表がなくて

案外気が利く


故に女受けも好い


何も好き好んで棘の道を往くことはない





憂うように薄紅を落とし続ける枝の下では


それと比するように


見事な花筏が水面を覆っている



白に近い淡い色を幾重にも重ねて

濁った川面を美しく染めている




未練がましく漂うそれが

私は好きだ




戻れずとも

醜くとも


想いは消えることがない



消えない未練は


手の届かない処で漂っているからこそ


美しい





はらはらと舞う花びらが


川面のそれに落ちかかり



淡く淡く

紅を点す







それを掬い上げ

握り潰したい衝動を


いつものように噛殺した






まもなく


花は落ちきる


水面の薄紅も


やがて流される




そして


素知らぬ顔で葉を茂らせる夏が




今年もやってくる

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