葉桜



「花見に行きましょう。葉桜だけど」


 意外にもあなたは頷いてくれた






 オフィス街の公園は人影も疎らで

 池の傍のベンチに並んで座る


「ああ、やっぱり葉が目立ちますね」


 呟くと


「それを見に来たんだろう」


 素っ気ない返事

 苦笑して見上げた桜は、華やかさの欠片もなく




「その代わり、ほら」


 あなたが指差した先

 池の端に溜まる薄紅色

 気に留めたことも無かった、それ



「落ちてなお咲きたいなんて未練がましいが」



 花筏と言うのだと、あなたは教えてくれた

 ソメイヨシノは嫌いだが、花筏それは好きだと

 手の届かないところで漂っているのが好いと




「届かない?」




 そうだろうか

 手を伸ばして掴み上げたら、この人はどうするのだろうか





 衝動は抑え難く








 滴る水とともに差し出した拳のなか




「何てことを。あんなに美しかったのに」




「同じですよ」


 手を開く



 醜く潰れた花びらも

 水面を染める花びらも

 咲き誇る花びらも

 儚く散るそれも


「全部同じです」








 泣きそうに顔を歪めるあなたに




 

 告げることは許されるだろうか




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る