届かないもの


あの月をとって



と、君が駄々をこねたのはずいぶん昔。


僕たちは従兄妹同士で、しかもほかに子供がいなかったから

親戚が寄るといつも一緒に遊んだね。


齢が離れていたから、君は遊び相手としては不足だった。

だけど

小さな手で僕の裾を掴むから、嫌だと言えなかったんだ。



君が月を欲しがったのは秋の頃だったかな。



お月様をとって


って言ったとき

君は腕いっぱいに秋桜を抱えていた。


取っても持てないよ


僕は言ったのに、君は聞きわけてくれなくて。


まだ小学生だった僕は知恵を絞って

庭の隅の池まで君を連れて行った。


うわあ


瞳を輝かせた君は、秋桜の花をひとつずつ千切って池に浮かべたね。

お月様を飾るんだ、って言って。




今日、淡い色の花に飾られた君はとてもきれいだ。


薄いベール越しに、恥ずかしそうに微笑んで僕の名を呼ぶ。

薔薇や名前も知らない花が秋桜に重なって見えるのはどうしてだろう。



ああ、そうだね。

手の届かないものに焦がれていたのは


僕の方だった。

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