初めての、


 彼女の手はよく動く。



 話をしているとき

 歩いているとき

 怒っているとき

 笑っているとき



 いつも蝶々のように彼女の周りを舞っている。



 僕に好きだと言ってくれたあのときも、忙しく動いていた。


 真赤になった顔をぱたぱた扇いでみたり、

 ぎゅっと握ってみたり。


 表情よりも雄弁な彼女の手を、可愛いと思った。



 今も、前を歩く彼女の手は一時も休まることがない。


 垂れた枝の葉に触れて、踊るように宙を舞って、

 塀の上で微睡む猫を撫でる。

 耳の付け根から喉の辺りまでをわしゃわしゃと撫でられて

 ゴロゴロと満足げに喉を鳴らす猫の体がくたりと伸びる。


 そうか、嬉しいか、

 そう言って撫で続ける彼女の方こそ、嬉しそうだ。


 僕は彼女に追いついて、空いている方の手をそっと絡めた。



 真赤になった彼女の手が一瞬止まり、猫が不満げにひと鳴きする。



「可愛いな」



 僕が言うと、彼女は小さな声で「うん」と答えた。





 可愛いいっていうのは彼女のことなんだけど。



 ちゃんと伝わったかな。

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