第2話(原作6~8話) 議員秘書の高蔵
『……繰り返しお伝えいたします。先ほど、正午ごろに韓国政府が日本に対して宣戦布告をしました。これにより、九州地方全域、中国地方の西部に空襲注意報と避難勧告、避難指示が出ています。避難指示が出ているのは福岡市全域、長崎市全域、北九州市全域……』
「どういうことですか……これ…」
衆議院議員の新人秘書、
「分かっていただろ、こうなることは」
この部屋の主、改新党所属の衆議院議員
「元々日韓の関係は最悪な状態と言っていいほど悪かった、そこに竹島奪還という爆弾を投げ込めば爆発するのは当然だ」
テレビの前にあるソファーに腰をおろすと、煙草をふかし始める。そうしているといきなりドアが開けられて人が飛び込んできた。
「先生ッテレビ付けて下さい!大変な…」
「知っとるわ!!」
突然部屋に入って来たのは同じ秘書の佐藤暁美≪さとうあけみ≫だ。あの話を聞いて慌てて知らせにきたのだろうが、ドジを踏んだのを知ってがっかりしている。
「あと先生、総理が例のアレをすぐに使うそうです。なのでこれから先は…」
「やはりそうか……」
「国防法第4条ですよね……確か…有事の際は総理大臣が国会の機能を弄れるようになるってやつ…」
「あのバカ首相が……いくらなんでもあれだけはやっちゃいかんだろう」
フゥーと息を吐くと灰皿に煙草を押し付けて火を消す。
「こうなる前に奴等を止めたかったのだがな……はやり少数派の野党だけではダメか。」
テレビではアナウンサーが休むことなく避難指示やら国防軍からの情報やらを伝えている。どうやら既に竹島では戦闘機が大量にやってきて戦闘になっているらしい。
「先生、念のため避難をしましょう。ここからですと国会議事堂前駅の地下避難所が近いはずです。」
おっちょこちょい秘書がそう急かすが、中々武藤は動こうとしない。
「いや、この国の軍が首都空襲なんてさせるわけがないだろう。ここは十分安全だ。」
「でもッ」
「今するべきことは違うんじゃないのか?」
ちょうどテレビでは官房長官の発表の生中継になったようだ。良く見る顔のおっさんが作業服のような物を着て出てくる。
「今こそ腐った憲民党を潰す絶好の機会じゃないか?」
「憲民党を潰す……ですか…?」
聞こえなかった訳ではない、しかし確認するように聞き返す。
「そうだ、奴らを潰すんだ」
やはり武藤はそう言い切った。
おもむろに二本目のタバコを取りだして火をつける。
「流石に直接潰すなんて無理だ、しかし足元を揺るがせられるきっかけを作ること位はできるだろう……。そこまでいけばマスコミと週刊誌がトドメをさすはずさ。」
テレビの中ではまだ官房長官が喋っていた。言ってる内容はいつもの通り、テンプルと言っていいほどの事だけである。
「政治の世界の闇に少しでも光を当てれば何かが変わるのかもしれない……少しでもその希望に掛けてもがいてみようじゃねぇか?
もちろん危険を伴うかもしれない、だがこれは一人じゃできないから協力が必要だ。どうだ、一か八かやってみないか?」
熱弁の最後にそう問い掛け、二人を交互に見ながら返事を待つ。
少しの間を置くと、ゴクリと唾を飲み込んで固まっていた雅人が答える。
「やりますッ…是非やらせて下さい!」
「わ、私もやりますッ!」
その答えを聞くと武藤は大きく頷いた。
「よしッ!やろうじゃねぇか!」
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雅人は殺風景な廊下を駆け抜けていた。慌ただしく移動する人々にぶつかりそうになりながらもギリギリで避けて走る。やがて目指している場所へ着くとドアの目の前で急ブレーキをして、体を何とか止まらせつつも勢い良くドアを開ける。
「取り敢えずはここだッ」
バンッという音をたてて開いた部屋は……首相官邸にある記者クラブである。
武藤にまず首相の直近の怪しい動きを調べろと言われ、首相の情報が一番入りやすいこの場所に直行したのだ。
「と…東京経済新聞のッ…深田は…ッいますか?」
突然入ってきた上に声を掛けてきたのに驚き、中にいた記者達が一斉にこちらへ顔を向けてくる。
「アイツは…今あそこにいるぞ、ホラ」
近くにいる記者が奥の方を指差してそう言った。
ありがとうございますと小さく礼をして指差した方へ早歩きで行く。
ごちゃごちゃしているデスクが並ぶなかを抜けた先にある一番端、そこに…ぐでんとイスにもたれ掛かっているのが深田平次≪ふかだへいじ≫だ。
「おぃッ、起きろ!」
雅人は肩を揺らして起こそうとするが、どうやら寝てはいなかったようだ。
「うぅ…起きてるわ…」
どこか元気の無さそうに見える深田は、ぐっと軽く体を伸ばしてイスに座り直す。
「どうしたんだよお前…?今はあんななんだし大忙しじゃないのか?なんでか他の人も暇そうだし…」
「それがよぉ」
ふぅとため息をつくと、手を広げながら深田が言う
「取材ができねぇんだよ」
「取材が…できない…?どういうことだよそれ」
「まあ簡単に言うと言論統制だな。第二次世界大戦の時と同じだ」
そう言うと、深田は座っている事務用の椅子ごとくるりと回ってデスクに向かい、開きっぱなしになっているノートパソコンを点ける。
「えーと…これだ」
ネットに接続すると、お気に入りから1つのホームページを出して見せてくる。
「これは……」
そのページは内閣官房のホームページのようで、1つの報道発表のようだ。
だが、その割には文章がかなり短く、完結に纏められていて…
「報道規制のお知らせって……ずいぶん単刀直入だな」
「まあお前らに教えられる情報は無いって事らしい」
書かれているのは情報収集、報道の制限と定期的に政府からの情報を公開するという物だ。高圧的な文章となっており、勝手な行動をすると処罰されるらしい。
「こういうことでここの部屋にいる俺達メディアの犬は用無しって訳だ」
「国民に何も伝えずに戦争をするってのか…」
「どうやら他にも色々と手ぇ回してるらしいから、結構前から準備されてるみたいだな。まあその情報流せないから知ってたところでアレだけど」
ハァ~と溜め息をつきながら、深田はノートパソコンをパタンと折り畳んで机の端に置いた。
「結構前から…?それってもしかして……」
深田がこぼした言葉に引っ掛かり、雅人が呟く。
「ん、なんだ?」
「ああ、元々ここに来たのは武藤さんにここ最近の首相怪しい動きを探れって言われててね」
「またあのおっさん何かやるのかぁ?まあいつも面白い情報流してくれるからこちらとしても嬉しいけど」
そう言うと、どこからかメモ帳とペンを持ち出してきて取材体制へと移った。どうやら雅人たちのやることに興味を持ったようだ。
「で、今回はどんな情報掴んできたんだ?」
「なんでそんなに嬉しそうにしてるんだよ…。残念ながらまだ動き始めたばっかだっての」
雅人はすぐにメモを取り出してきた深田に若干引きながらもそう答える。
「な~んだ、つまんねぇの」
「まだ宣戦布告されてから一時間経ったかどうかだろ…。まあそんな訳で何か情報があるかなって聞きに来たんだ」
「なるほどねぇ…まあ確かに怪しい会談は何回かあったけど…」
持ってるメモ帳をペラペラと捲り探しはじめる。
「えーと……4月7日の夜と5月1日の昼と…この2つくらいだとは思うけ……ん?なんだこれ」
「何か怪しい日があったのか?」
「ああ、5月13日のメモだけ無いぞ…」
「それが何かおかしいのか?」
「ああ、1日も抜かりなく全てメモってるのにこんなミスをするわけがねぇ」
すぐさま深田は隣のデスクの同僚に手帳を見せて貰うが…その手帳も5月13日だけ抜けている。
深田は状況が飲み込めず、慌ててもう1人の同僚の場所に駆け寄るがここから見る限り結果は同じだったようだ。顔に脂汗を浮かべながら戻ってくる。
「何でだッ…なんでこの日だけ抜けてるんだ!?」
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今回の兵器紹介
・憲民党 改新党
国防法成立当初からの与党、野党第一党で、今日に至るまで政治の場で熾烈な争いをしてきた日本の二大政党。
両党共に元は日本の安全を第一にと考える憲友党であったが、米軍撤退を機に意見が分かれた。その際に憲民党が圧倒的な支持者と有力な議員が集まった為、今現在の日本が出来上がったと言っても過言ではない。
・国防法
いい意味でも悪い意味でも日本を大きく変えることになった法律「新安保条約の全面的否決と防衛力強化に関する法律"通称:国防法"」。
成立から半世紀のたった今でも政治の場では争点に持ち出される法律であり、曖昧に作られた部分が仇となっている。
賛成派と反対派が激しく対立しているため、事あるごとに過激派がデモを起こすので長年日本が抱えている問題になってしまった。
ー新安保条約の全面的否決と防衛力強化に関する法律ー
(昭和四十一年四月二十五日法律第五十三号)
この法律は、先の大戦における甚大な被害を教訓に、他国に頼らず独自の軍隊で我が国及び国民への武力による攻撃を未然に防ぎ、永世に渡り安全を確保するために制定する。
第一条 我が国は、周辺諸国から攻撃を受けた際は総力を挙げてこれを阻止し、国民へ早急に平和と安全がもたらせるよう尽力を尽くす。
第二条 日本国軍は、国民や日本国の領土・領空・領海及び周辺海域等の安全と平和を保つために創設される。
第三条 我が国及び国民への攻撃があった際に限り、防衛手段として日本国軍は武力による抵抗を認められる。
第四条 第三条に定められた状態に陥った際に限り、内閣総理大臣は国会の一部機能の行使や制限を行うことができる。
第五条 この法律はあくまで我が国を防衛するために定められるものであり、威嚇や侵略の目的では無い。
また、日本国軍も同様である。
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