第五話 注記表および附属明細書⑤


 沈水が目を覚ます。


 猿ぐつわのように布を口に当てられ、両手は後ろに回され縛られている。


「うーうー」


 一応声を出してみたが外に漏れるような大きさにはならない。

 辺りを見回すと、どうやら車の中に閉じ込められていることがわかった。


 テーマパークでよりにもよって従業員に襲われて、抵抗してみたものの、背後の二人に羽交い締めにされ、おそらく意識を失ったところまでは覚えている。

 倒れる寸前、大鳳を守ろうとしたが、よりかかった彼女に『ごめんね』と囁かれたことで彼女も一味だという事態を把握した。

 不思議と彼女に対する敵意は浮かばなかった。

 油断してしまった自分が馬鹿だったのだ。


 やっぱり女の子は怖い。


 服に違和感はないが、スマホは取り上げられてしまっただろう。


 見える範囲で車から外を見る。

 外はだだっ広く、一面がコンクリートで覆われている。

 駐車場だろうか。

 しかも、この感じは地下だ。

 身をよじらせてみるも、縛られた手はほどけそうにない。


 いよいよか。

 沈水は最終手段に出ることにした。


 もしこんなことが起こったときに、用意していたものがあった。

 コンクリートに覆われた地下駐車場、本当に起動するか、しかも電波が届くかもわからない。


 設定によれば、稼働時間はたったの五分。

 そのうち、何分が使えるのかもわからない。


 しかし、今はこれに頼むしかない。

 とりあえず、自分が何にでも手を出すジャンキータイプで良かったと納得させる。


 沈水は、猿ぐつわをされたままで、口を大きく開けて、思い切り力を込めて歯を噛み合わせた。


 カチリ、と音がして、痺れるような軽いショックがある。


 成功か。


 とにかく、数秒でも届くのを期待する。


 左の奥歯に嵌め込まれた銀歯に被せられた小型の発信器が起動した。

 沈水はあとはやることがないかと、車の中を探る。

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