第二話 損益計算書

第二話 損益計算書①


『USPの情報をネットから手に入れたよ』


 沈水が自身のパソコンと連動している回収室のディスプレイに自身の文字と合わせて検索結果を表示する。

 零陵は今日は既に席を外している。

 零陵は回収室とアメリカ財務省情報局との二重所属であることもあって、当初馬酔木に誘われたときの契約通り、定時である十七時には退社をしてしまうのだ。


「情報源は?」


 栴檀と蘇合がディスプレイの前に集まる。


『まあ、噂程度ならいくらでも集められるけど、ちょっとこっちにも伝手があってね』

「同業者か?」


 ディスプレイを見ながら、蘇合が顎に手を当てて沈水に聞いた。


『まあ、そんなところ。いうなれば、光の戦士かな』

「なんだそりゃ?」

『うんにゃ、まあ、通り名だよ。それ以上はなし。おっさんだって、情報先は明かさない。それが原則でしょ?』

「ああ、そうだな。お前にもそういうコミュニティがある、ということだな」


 蘇合は納得したようで、それ以上深く追求することはなかった。


『そんなわけで、これが、USPの情報。まずは入口の公式サイトから』


 USPにはネット上に公式サイトがあるらしく、それをディスプレイ越しに栴檀と蘇合の二人に見せている。


 USP、それが鷺が依頼してきた新興宗教の名前だ。

 公式サイトは宗教色は薄い。

 背景は白、やけに縦に長い。

 宗教のサイトというよりは、どちらかと言えば情報商材や流行の通販のサイトのようだった。


「『USPは現世利益を大切にします。遠い未来の話ではなく、すぐそこにある明日、幸せになれる方法があります』か。要するに、金儲けをしましょう、ということだな」

「そうだな」


 サイトのトップに書かれていた文言だ。

 その下に並ぶ文言も


『副業で月収100万!』

『誰にでもできる!』

『運は引き寄せられる!』


 などと胡散臭さに溢れている。


『あははこれ、よく引っかかるねえ』


 沈水が文字で笑うが、ディスプレイをみていた蘇合は真面目な顔だ。


「いや、そうでもないぞ」

『そうなの?』

「こういう商材系詐欺で大事なのはな、いかに効率良く『騙される人間』を集めるかだ。実際に集めた人間が話を聞いたあと知恵が回って逃げ出したらロスになるし、警察に駆け込まれたら余計に厄介だ、だからな……」

『詐欺だってわからない馬鹿を集めてる?』

「ま、平たく言えばそうだな。この文章を見て引っかかる程度の人間の方が、騙す側も都合が良いから、あえてレベルを落として書かれているんだ」

『あはー、ひどいなー』


 蘇合の言い草は騙されている人間にとっては堪ったものではないが、なおも続ける。


「スパムメールと同じだな。一万人に一人でも馬鹿が引っかかってくれれば元は取れるってもんだ」

『ふうん、じゃあ馬鹿馬鹿しい方がいいんだ』

「そういうこった」

「具体的にはどういうことをしているんだ?」


 沈水のいる部屋の隅に向かって栴檀が話しかける。


『んーと、いくつかあるみたいだけど、これだね』


 沈水がサイトの最下部までスクロールすると大きなフォントで、


『脅威の的中率!』


 と書かれていた。


「株価予想か」


 下の説明書きに目を移す。

 メールアドレスをUSPのサイトに登録すると、翌日の日経平均の終わり値が前日より上昇しているか下降しているか、その予想をその日のうちに送ってくれるというサービスを提供してくれるらしいのだ。

 そのための会員を募っているようで、まずは無料登録を、とメールアドレスが入力できるフォームがあった。


『日経平均株価ってニュースでよく見るヤツだよね』


 そう言いながら、沈水が大げさに首を捻っている。


『日経平均株価の上昇、下降を当てることができるか、それなら二択だよね。当て続けることができる? というか当てることに意味なんてあるの?』

「ああ、ある」


 栴檀が認める。


「個別の株取引以外に、225の先物取引というのがある。上場している株のうち、日経平均に採用されているのは225社。この225社の株価の平均を色々調整して出した株価が日経平均、というわけだ。225先物取引というのは、この日経平均の価格が上がるか下がるかに賭ける取引で、ほとんど博打のようなものだ。元手が少なくて、かつ二択のベットでわかりやすいのと、それに当たったときの儲けが大きいのとで、初心者の参加が増えているという話だ。この類だと、バイナリーオプションに手を出している可能性も高い」

『先物?』

「未来の価格を先取りするってヤツだな。投資詐欺にもよく使うって話だ。まあ、俺は専門外だから詳しくは知らねえが」


 先物取引自体は蘇合も知っているようだった。

 沈水は蘇合の簡潔すぎる説明では理解できないようで、栴檀に追加の説明を求めた。


「沈水、何か飲むか?」


 唐突に栴檀が言った。


「コーラ!」


 文字ではなく、大きな声で沈水が答えた。


 栴檀が冷蔵庫まで歩き、半分コーラのペットボトルで占められた冷蔵庫から一本のコーラを取り出す。

 沈水の近くまで行き、沈水の前にあるディスプレイの裏からコーラを差し出す。


「さんきゅー」


 沈水がすっとコーラを受け取ろうとしたが、栴檀は何を思ったのか急に手を引っ込めてしまった。


「先物取引は、蘇合の言うように、未来の価格を取引する。たとえば、ここはコーラの自由市場だ。誰もがコーラを取引できる。そのため、コーラ一本の価格は日々上下している。どうすれば、価格が変動すると思う? これは経済の基本的なシステムだ」

『需要と供給?』


 壁掛けのディスプレイに回答があった。


「その通り。具体的に言うと、コーラの在庫が大量にあれば値段は安く、在庫が僅少になれば値段は高くなる。そして、欲しい人がたくさんいれば値段は高く、誰も欲しがらなければ値段は安くなる」


 経済学における基礎の基礎だ。

 沈水もこれに答えたからといって得意げにはなっていない。


「そこで、だ。決済期限十二月のコーラの値段を予想する。今は安定期で150円だとしよう。十二月末、コーラの値段を予想する。どうだ?」


 やや間があって、ディスプレイに文字が現れた。


『130円かな。寒くなるだろうから』


 十二月末の大晦日、ちらついているかもしれない雪を想像したのか、寒くなれば売れなくなるだろうと、沈水はコーラの価格が下がると予想した。


「そうか。たとえば今は十二月末のコーラの価格は150円で取引されている。沈水は値段が下がると予想した。下がる方に賭ける場合は、『売り』をする。売りは先物取引では『プット』とも呼ばれる」

『持っていないのに売れるの?』


 沈水の手元にコーラがあるわけではない。

 コーラがないのにコーラを売る、というのがぴんとこないようだ。


「あくまでここは権利の問題だ。相手あっての取引だから、『買い』の人間も必要となる。相手が必要ということでは、通常の株取引も同じだ。買う人間がいれば、売る人間も必ずいることになる」


 話を聞いていた蘇合が勝手に冷蔵庫から沈水のコーラを取り出して飲んでいた。


「じゃあ、俺は『買い』にするぜ。冬休みだし年末だ。需要は上がるだろ」

『ちょっとおっさん僕のコーラなんだけど』


 沈水が文字で抗議をした。


「ああ、そうだった。お前は天井からカメラで見ているんだったな」


 蘇合が指で天井を指した。


「蘇合が相手となって『買い』を選択した。『買い』は『コール』とも言う。FXなら『買い』は『ロング』、『売り』は『ショート』と呼ぶ。蘇合、小銭を持っていないか?」


 栴檀が蘇合に聞いて、蘇合は空いた手でアロハのポケットから十円玉を取り出した。


「ほらよ」

「借りる。十二月末の実際の価格が表だったら20円の上昇で170円に、裏だったら20円の下落で130円になるとしよう」


 栴檀が右手でコインを弾いて、左手の甲と右手の手のひらで受け止めた。

 それを天井のカメラがあるらしき方向に向け、沈水にも見えるように右手を外す。


「裏だ」


 十円玉は大きな『10』を見せていた。


「価値は下落して130円になった。ここで双方の取引が決済される。さて、結果だ。値段が上がると予想していた蘇合は、150円で『買って』いたのだから、130円のものを150円で買わなければならず、20円の損失を出した。反対に、値段が下がると予想していた沈水は『売って』いたのだから蘇合の損失分、20円の利益を得る。これが先物の仕組みだ」

『あー、「売り」でも利益が出るっていうのはなんとなくわかった』

「今のたとえ話はあくまで単純化したモデルで、実際に決済まで持ち続けることは少なく、その間で買うもの売るものの間で価格が揺れ動くから、そこで処分してしまうことの方が多い」

「ちぇ、外れかよ」


 たとえにもかかわらず、蘇合が惜しいことをした、というような顔をした。


『ややこしいね』

「えーと、確か、先物の発祥は日本なんだよな?」


 蘇合は空になったコーラをゴミ箱に投げ捨て、思い出したようにそう言い、結局は説明を栴檀に求めた。

 栴檀も淀みなく振られた話の解説をする。


「そう言われている。先物取引は、日経平均のような指標だけでなく、金、原油、大豆、小豆、とうもろこし、砂糖などといったものが国際的に取引されている。というか、こういった現物商品のために作られたのが先物取引で、指標を取引するのは例外だ。そういった現物商品の中で、日本発祥だとしたら、何を取引していたと思う?」

『うーん、お米?』

「そうだ。米の先物取引が江戸時代に行われたのが始まりだといわれている。元々、先物取引はギャンブルではない。米の収穫前に先取りして、その権利を売買するために生み出されたものだ。収穫時の価格よりも安く買えればよし、の発想だ。結果的に、利益が安定することになる。それが半ばただのギャンブルのようになってしまったのが現在だ。しかも、通常の株取引よりも儲けが大きい」

「儲けが大きいってことは、損も大きいってことだろ? 先物についてはほとんど知らねえが、ローリスクハイリターンなんて言ったらそれこそ詐欺だぜ。投資詐欺に使うくらいなんだから、ハイリスクハイリターンなんだろ」


 儲け、というところに蘇合が反応をしたのか突っ込んでくる。

 栴檀はこくりと一度うなずいて続ける。


「そう、確実にハイリスクハイリターンの取引だ」

『ふうん』

「まずひとつとして、先物取引が証拠金取引であることだ。一万円を担保にして、一千万円の取引をすることができるのが、先物取引のポイントだ。為替を取引するFXに近い。さっきのコーラのたとえ話で言うなら、ペットボトルが何千本も詰まったコンテナ一個単位で取引するのに、150円でいい、ということだ」

「手持ちの金より大きく勝負できるってわけか。まさに博打だな」


 それを聞いた蘇合が先物取引に対する感想を漏らした。


「この担保と実際の取引の比をレバレッジという。100万円の証拠金で1000万の取引なら、レバレッジは10だ。10万円で1000万の取引をしようとすれば、レバレッジは100となる。このレバレッジが大きければ大きいほど、元金を低く抑えられ、儲けも大きい。当然損も大きい。最悪の場合、証拠金のすべてを失うどころの話ではなくなる」

『ああ、FX板でよく見る光景だね』

「FXでも先物取引でも、一定以上の損失が出そうなときには強制的に決済されることがある。これはいわゆる『ロスカット』と呼ばれる機能だ」

『なら大丈夫じゃない? マイナスにはならないってことでしょ?』

「さっきも言ったように、決済するには、たとえば『買って』いたものを『売る』には、その価格で『買って』くれる人がいなければいけない。何かのきっかけで大暴落が起きて、取引会社がロスカットをしようとしてもその値段では誰も買いたがらず、どんどん下がっていって、ほとんどゼロでようやく売れたとすると、証拠金以上に損失が出ることになる。100万円で1000万の取引をしていたとき、ロスカットができずに1000万が200万まで下がれば、損失は800万になって、証拠金の100万以上、追加で700万が必要になる」

『証券会社が補填してくれないの? ロスカットできなかったのはその会社のせいじゃない?』

「あくまで証券会社が提供しているのはロスカットという機能であって、損失を被るという契約ではない」

「ロスカットはお守りってわけだな。もう一つは?」


 話を聞いていた蘇合が言った。


「飲み込みが早いな蘇合、いい詐欺師になる」

「冗談はよせ、もう引退済みだ」


 蘇合は手を振って栴檀の冗談をいなす。


「『買いは家まで、売りは命まで』という格言がある。プットの損には原則上限がない」

『プット? 売りのことだね』

「考えればわかるが、ロスカットされなかった場合、コールは損に上限がある。その値がゼロになることだ」


 一万円の何かがゼロ円になることはある。

 株であれば会社の倒産で紙くず、価値ゼロ円になってしまうリスクはある。


「だが、買いではマイナスにはならない」

「そういうことか」


 蘇合が察したようで、何度もうなずいている。


「そう、下がる方に賭ける売りは上限がない。一万円で『売り』に出していたものが、100万円になったら、その差分の99万円が損になる。レバレッジが千倍でロスカットが間に合わなかったとすると、10億円弱の損失になる」


 現象としてはほとんどあり得ないが、あり得ないことが起こるのが相場というものだ。

 だから、売りに手を出すと家どころか命まで失われると言われているのだ。


「沈水も手を出すならプット、売りはやめておいた方がいい」


 検索で先物取引会社のサイトを物色していたのがディスプレイの表示でバレていた沈水に栴檀が忠告する。


『あ、うん……』

「この界隈も詐欺スレスレの話が多い。実際に小さな文字でも注意事項は表示してクリックの際に承認させているから、自己責任という言い逃れができる。株価や金などの現物と違って、いくつかの商品先物は市場が小さいから、少しの出来事で値の変動も大きくなる」

『じゃあ、勝ち続けるのは?』

「経済がわかっていれば勝率を上げることはできるが、常に勝ち続けることは不可能だ。まず『絶対』はあり得ない」

『なるほどー』

「USPが送ってくる日経平均の予想メールが一度ではなく、ずっと的中し続けたとしたら、それは経済学のプロではなく、インチキか、あるいは本当に神の力があるか、のどちらかでしかない。後者はあり得ないから、まずインチキだと疑うのが筋だ」


 説明が一段落したところで、蘇合が話を戻す。


「そんで、USPのサイトでアドレスを登録するヤツがいるのか? 別に教祖様は経済学者ってわけでもないんだろ?」

『そう思って捨てアドで登録してみた』


 沈水がメーラーを起動して、USPから来た返信メールを開く。


『お試しで一週間くらい、平日五日分かな、その「予言」が来るみたい』


 テンプレートの文章が続き、簡潔に、行を開けたところに


『本日は下落です』


 と書かれていた。


「今日の終わり値は?」


 時刻は15時を回っていて、今日の取引はもう終わっている。

 すぐさま沈水は経済ニュースを見る。


『前日比85円安、当たりだ。すごい』


 どうやら今日は予言が的中したらしい。

 沈水が素直に驚いている。


「ははは、感心するなよ引きこもり。これは『必勝法詐欺』ってヤツだぜ」

 笑いながら蘇合が言った必勝法、という言葉で栴檀にはトリックがわかった。

「そういうことか」

『なになに』

「なるほどなるほど。せっかくだから、数字のスペシャリストである栴檀様にこの必勝法詐欺ってヤツを説明してもらおうかな?」


 蘇合がもう答えを見抜いたらしい栴檀に、答え合わせとばかりにおどけて挑発的に説明を要求する。


「おそらくこうだろう。上昇か下落か、どちらかが書かれたメールを大量に配信する。件数は半々だ。あとはどのアドレスにどちらを送ったかを記録しておいて、『外れたらもう送らず』、『当たったら翌日分を上昇、下落を1/2でまた送る』。これを五日分繰り返せば2の5乗だから32。32人に一人は五日連続で『奇跡』のような的中率のメールが届くことになる」

「ご名答! さすがエリート! お前はいい詐欺師になるぜ」


 ビシッと蘇合が栴檀を指差す。


「今はエリートではないし、詐欺師になるつもりもない。これは単に数学上の計算だ」

『当たったのはたまたまってことか』


 栴檀の説明で沈水も理解したようだ。


「倍々になるが、10日連続でも1024人に一人は当たる。五日程度で十分なら千人に送れば31人に『奇跡』を見せることができる。これだけの人数に当たるのなら上出来だろう」


 確率で換算すれば3%ちょっとだ。

 このうち、本気にして問い合わせをする人間が一割でもいたのなら、一人か二人は勧誘できる。

 それから金を搾り取れば、メールを送った分の元は取れるだろう。


 蘇合が右手でレバーを捻るような動作をする。


「似たような詐欺にパチンコの必勝法教えます、っていう触れ込みで適当な台を教える手口があるんだ。たまたま当たったヤツが本気にして今後のために金を振り込んでくる。だが詐欺師はパチンコの台をチェックするどころか、送った相手がパチンコをするか、その行動範囲にパチンコ店があるかどうかすら気にしない。当たっているかどうかは送られたカモが勝手に判断するからな」


 これもパチンコの知識がわずかにあればいい。

 あとは、どれだけ大量のメールアドレスに送ることができるか、引っかかってきた人間をどう誘導するか、パソコンの前に座って考えればいいだけだ。


「これに一回金を送っちまったらもうカモだな。次失敗しても、間違ったのが『たまたま』と言い聞かせることで何度も金を払っちまう。失敗分をなんとかして取り返そうとするんだな」


 騙された人間は、当たったのがたまたまではなく、外れたのがたまたまと思い込んでしまう。


「コンコルド効果だ」


 出し抜けに栴檀が言い放つ。


『なにそれ?』

「すでに投下してしまった資金を、中止や撤退を考える際に考慮してしまう人間の現象のことだ。昔、超音速旅客機コンコルドという飛行機が作られたが、あまりに開発、運用に金をかけてしまったために、回収することができないとわかっていてもずるずると続けやめられなかったことに由来する」

『うーん、よくわからないなあ』


 沈水が首をぐるりと回す。


「そうだな、簡単なクイズを出そう。映画を観るために映画館に行ったが、千円で買ったチケットをなくしてしまった。その場で買い直すにはまた千円かかるが、この機会を逃すともう映画は観られない。ではこの映画は、いくら以上の価値があると判断していればチケットを買い直すべきか?」

『ん、二千円でしょ? なくした千円と買い直す千円なんだから』


 深く考えずに答えた沈水に、蘇合が異論を唱える。


「それは違うと思うぞ沈水。なくした千円は、なくした千円だ。買い直そうが諦めようが戻ってくるわけじゃねえ。『そのことは忘れて』千円の価値があると思えばまたチケットを買えばいい。どうだ?」

「蘇合が正しい」

「よし」


 蘇合が胸元に右手を置き、ぐっと握りしめた。


「つまり引きこもり、お前はカモ側ってわけだな」


 すでに使ってしまったものは、どうしようが取り戻せない。

 であるのに、そのことを計算にいれて、取り戻せるかどうかを考えると、期待が上がってしまう。

 これが損失を取り返そうとして、投資を止められないサイクルを生み出してしまう。


『むー、あー、うーん』


 なんだかけむに巻かれて、騙されたような顔を沈水がしている。


「騙されたやつが、なぜかもう一度同じ詐欺に騙される理由だな。詐欺師なら、そこはきっちり分けて考える」


 詐欺師の先輩として、蘇合はその判断は迅速に行えるようだ。

 笑いながら蘇合はこめかみに人差し指を当てる。


「必勝法詐欺は、『当たった人間』にとっては必勝なんだよ。なにせ現実に全勝しているんだからな。だから『必勝法詐欺』なんて名前がついた。大量にメールを送るのがポイントだ」

「『確率上起こりうることは必ずいつか起こる』だな。これはマーフィーの法則とも言われている」

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