第一話 貸借対照表④


「食後の飲み物でございますー」


 沈黙を察知したのか、さきほどのウェイトレスがやってきて、注文時に頼んでおいた飲み物をもってくる。


 蘇合、栴檀の前にはコーヒーが、零陵の前には紅茶が、沈水にはホットミルクが置かれた。

 沈水はその間、ずっとウェイトレスと目が合わないように、壁を見ていた。


「……それより、そっちの方はどうだ? 送り先はわかったのか?」


 蘇合が、沈水と零陵に向いた。再度口元を紙ナプキンで拭いた零陵が怜悧そうな声で答える。

 メガネをしていれば、それを片手でクイっと上げていそうな感じだ。


 甘い物を食べたばかりだと言うのに、零陵はスティックシュガーを二本入れてスプーンでかき回していた。

 一緒に食事をしたことが今までなかった栴檀だが、零陵はあれでかなりの甘党なのかもしれない。


「ええ、送金先は南アフリカであることがわかりました。おそらく、発案者、主な実行者はそこにいたものと考えられます」


 実行犯は金を引き出したあと、そのうちのいくらかを、すぐさま指定された口座に振り込んでいた形跡があった。


 しかも海外送金だった。


 送金先は海外の架空口座だ。

 海外ではまだ日本ほど本人確認が厳密ではないところも多い。

 送金先の銀行口座がわかったとしても、そこから先の追跡は難しいだろう。


「ふん、じゃあこれで打ち止めか。クレジットの被害者も関係ないしな」

「持ち主はどうやら南アフリカばっかで、日本人はいないみたいだし」


 ディスプレイに映し出されている口座名義人のリストを見ながら沈水が蘇合に返した。

 そもそもクレジットカードは南アフリカの銀行が発行したものだから、当地に在住している人間が被害者になる。


 被害者は日本にはいない。

 日本国内に被害がなければ、被害額を回収するという大義名分が存在しないことになるから、回収室の出番ではなくなってしまう。


「数名アメリカ国籍の被害者がいたため、アメリカからも支援要請は来ていますが、アメリカ国籍者の被害額は少ないですから、おそらく手を引くでしょう」

「あとは、最終的な被害者が誰になるか、こちら側に負担があるかだ」


 栴檀が顎に手を当てる。


「負担? どういうことだ?」


 首を傾げて蘇合が聞き返す。


「偽造されたカードの持ち主に責任はない。カード会社も引き落とされた被害者に損害額を請求はしないだろう。顧客リストを盗まれた落ち度はその南アフリカの銀行にある。そこが損失を被れば話は終わりだ。しかし、日本のATM側のセキュリティを責められたら、ATMを設置していた日本の銀行側、コンビニ側にも何らかの損失補填要請はあるかもしれない、という話だ」


 端を発したのは南アフリカの銀行の情報流出だが、なくなったのはATMを設置している銀行の金だ。

 それを全額補填してくれればいいが、自分のところの認証が甘いと言われたくないカードの発行会社と組んで、補填額の減額を要求してくるかもしれない。

 そうなれば、被害者の一部は日本の銀行となり、その分は回収室の担当とすることができる。


「ふうん、どうなんだ、セキュリティならひきこもりが詳しいだろ? 日本のセキュリティは優秀なんじゃないのか?」


 蘇合に聞かれた沈水は、首を捻って、一周させた。


「うーん、システムは優秀なんだけど、運用する人間がザルって感じかな。あとさ、便利過ぎるのも問題かなあ」

「人間がザルなのは当然としてよ、便利なのが問題なのか?」

「もちろん。そこら中のコンビニで、警備員もいなく、バイトしかいない状況で、真夜中にお金を下ろせるようにしているシステム自体が異常でしょ。ネットのセキュリティじゃなくて、物理的なセキュリティの話。便利なのはいいけど、それに対応する設備が全然ないんじゃ、襲ってくださいって言ってるようなもんじゃん。いやあ、日本だけならいいかもしれないけど、現にこうやって海外勢が目をつけていたんだし」

「コンビニを狙ったのはセキュリティが薄いからか?」

「そうだろーね、日本のコンビニのセキュリティの甘さは海外にも知られているって思った方がいいんじゃないかな?」

「そうだな、振込詐欺でも出し子はコンビニを使えと言われるしな」


 蘇合が納得する。

 振込詐欺でも、架空口座に振り込まれた金を引き出す『出し子』は、防犯カメラの死角になりがちなコンビニをピックアップして使用するという。

 銀行のATMは防犯がしっかりしている上に、異変があれば警備会社がすぐさま飛んでくるようになっている。

 しかし、コンビニでは場所によっては、異変があっても数十分以上かかるところもある。

 そういうところを狙って使うのだ。


「便利さを取ってセキュリティを落とすコストカットもいいけど、割に合っているかはもうちょっと考えないと、今回みたいにドッカーンとやられるかもしれないからね」

「手際としてはどうなんだ?」


 栴檀が沈水に意見を求めるのは珍しい。


「すごくいいと思う。百人以上の出し子を数時間で使いこなす統率力もすごいけど、計画は本当にじっくり綿密に練られたんだと思う。場所が日本っていうのも、意表をついているようで理にかなっている」

「さっきのセキュリティと利便さの話か?」

「それもあるんだけど、引き下ろした時間の問題」

「確か、日曜の朝六時前後だったな。コンビニに人がいない時間、ということか?」


 蘇合も付け加える。


「警備も手薄なときだな」

「あともう一つ。狙われた銀行の場所」


 沈水がそう言って、立てた右指を二人に向けて右方向に倒した。

 それに答えたのは零陵だった。


「南アフリカ、時差ですね」


 被害に遭った銀行は南アフリカの銀行。


「時差はマイナス七時間です」


 栴檀が脳内の時計の針を七時間戻す。


「土曜の夜か、なるほど。この時差が使える場所を探していたのか」


 現地ではちょうど土曜から日曜に日が変わるタイミングだ。

 銀行の窓口は当然閉まっているだろうし、残業している銀行員もおそらくいない。

 警備システムはあるだろうが、実際にシステムを監視しているのは人間だ。

 週で一番気が緩む時間があるとすれば、まさにこの時間、というわけだ。


「だからわざわざ日本に目をつけたのか」

「条件がいっぱいあって、かつ、すべて揃うタイミングってわけだね」


 そこまで計算に入れていて計画していたとすれば、数年単位が必要だったに違いない。


「それに今回はスキミングじゃないはず。内部データを使ったから、銀行システムのハッキングか、いや、うん、たぶん、ハッキングを考えるよりは、内部犯か内部に共犯者がいたって考えた方がいいかな」

「どうしてそう思う」

「まずハッキングじゃないと思うのは、ただ内部犯の方が簡単だっていうだけ。銀行の取引データを外から盗むくらいなら、いくらか分け前をあげて、銀行員からデータをもらった方が確実ってこと。結構ハッキングって面倒だからね、まー、データを内部から受け取るのもソーシャルハッキングっていう部類に入るんだけど」

「スキミングじゃないのは?」

「これも勘だけど、『当たりが多すぎる』んだよね」

「当たり?」

「そう、引き出すときにエラーを吐かれちゃ困るわけだから、事前に『使う』カードはかなり厳選したはずなんだよね」

「それはそうだ」


 エラーが立て続けに起これば、金を引き出す余裕もなく警備が駆けつけてくるだろう。


「だから、エラーにならないで、しかもこの量を一気に引き出せたってことは、やっぱりデータを『まるごと』手に入れたんだと思う。そこからキャッシングの上限とか、国外で使えるか、とか、選別するから。これも色々知っている内部犯がいた方がいいよね。普通は自分の銀行に損をさせるようなこと考えないと思うけど、日本円で20億近いお金の分け前がもらえるとなったら、どうかな、一人二人はいるんじゃないかな?」


 そこまで計画を練った犯行グループだ。

 トカゲの尻尾切りよろしく、日本で捕まった実行犯から足は掴ませないだろう。


「だいたい、クレカといえば、せいぜい偽造か番号搾取がメイン、あとは現金化くらいで、限度額の低いキャッシングを大々的にやるやつなんてそんなにいなかったんだがなあ」

「そうかなあ、直接現金引き下ろせた方がいいと思うけど」


 沈水が疑問を呈する。


「意識は薄いといっても、防犯カメラに映るのは避けたいからな。こういうのは詐欺というより、こそ泥がやるようなことだな」


 蘇合の中では、窃盗と詐欺の間には序列があるらしい。

 もちろん詐欺の方が上のようだ。


「カードの複製はそんなに難しいわけじゃないしね。ICチップ入りならともかく、磁気ストライプのものならコピーする機械がネットに売っているし。でも表面を似せるのは難しいよね、そういうのはどこかにある偽造屋に頼んで表面だけ買ったりするらしいし。まー、ネット通販の番号掠った方が効率はいいよね、番号と名前だけなんだから」


 まるで、カード偽造をやったことがあるような言い回しで沈水が言った。


「ほら、こういうのだよ」


 沈水がそう言って、ポケットから取り出した自分のスマホを操作してディスプレイを見せた。

 そこにはカードを複製するための機械を販売するページがあった。


「ほかにも、ほら、こういうのもあるよ」


 右手でフリックしてページを切り替えてみせる。

 次に出てきたのは、偽造の運転免許証を代行で作成する業者のサイトだ。


「ほらほら、いっぱい」


 沈水が楽しそうにどんどん新しいサイトを開いている。

 小型の盗聴器や発信器などが通販で売られているサイトだ。


「こーいう犯罪はしやすくなったねえ」

「まったく、お手軽な世の中になったものだぜ。こういうのは伝手がないと買えないから人脈ってのが大事だったんだが、時代はもう違うんだな」


 蘇合が溜息をつく。


「まあ、おっさんの時代はもう終わりだよね」

「そうかもな、十年選手は引退だ。老兵はなんとやらだな」


 珍しく蘇合が同意したところで、引っかかりを覚えたのか沈水は首を傾げる。


「ん、おっさんって生まれつき詐欺師なんじゃないの?」

「失礼なことを言うな。んなわけねえだろうが」

「ふうん、じゃあその前は何してたわけ?」

「まあ、色々だよ」


 コーヒーカップに熱そうに息を吹きかけながら蘇合が壁を見た。

 これ以上聞くな、という空気は沈水にも伝わったようで、話を切り替えることにしたようだ。


「ところでさ、おっさんの言ってたクレカの現金化って、よく電柱に貼ってあるやつでしょ? あれも闇金なの?」


 沈水が電柱に貼られた紙を表現したのか、指を動かし長方形を作る。

 街中の目立たないところに、ショッピング枠を現金化します、という文言と携帯電話の電話番号が書かれた紙が貼られているが、それを模したのだろう。


「いや、あっちは古物商関係だな。簡単に言えば、クレカで物を買わせて、それを現金で買い取るわけだな。骨董品なんかは定価があってないようなものだからいくらでも値がつけ放題だしな。んで、実際に持ち運ぶんなら、そこそこ軽くて小さくて価値がある方がカード会社を騙しやすい。ラミネート加工された数十グラムの金なんかも使われる。まあ、パチンコの換金と実質的なシステムは同じだ。ただ、カード会社の審査があるから、その場で売って即買い取りっていうのは避ける。大体は同じ雑居ビルの別の階に、売る店と買い取る店が別れていて、商品をそこで回す。これも物がなくたっていい。建前だけあればいいわけだからな」

「それって詐欺? 違法?」

「そこが難しいところだな。金が必要なやつを騙そうとしているわけじゃないし、いや、誠実ではないし、闇金並みに暴利という点では怪しいんだが、カード会社も客が買った物を売ってはいけない、なんて決めるわけにもいかないからな。こういうの、なんだっけ?」

「財産権の保障」


 蘇合が視線を送り、当たり前のように栴檀が返す。


「そうそれだ。売るのが早いか遅いか、その違いでしかない。もっとも、換金目的でのカード使用は規約で禁止されているし、本人には買った額の借金が残るわけだから、褒められたもんじゃないな」


 蘇合のその後の補足は栴檀がする。


「しかし、違法ではない。違法でなければ、少なくとも、そこに回収室は立ち入れない。いっそ闇金に手を出してくれた方が楽だ」


 闇金は明らかに利息が違法だから、法を超えた高利の被害者がいれば警察も捜査ができるし、場合によっては回収室が違法分あるいは全額を回収することができる。


 一方、グレーゾーンにあるもの、とりわけ取引自体は合法と解釈されるものは、回収室に出る幕はない。

 回収室はあくまでも、犯罪が起こったあとの、事後の片付けをする組織なのだ。


「まあ、そうだな、大人しく闇金に行った方がまだ救いがあるかもしれん」

「やけに闇金の肩を持っていない?」

「いいや、そんな気はないんだが……」


 やんわりと蘇合が否定をする。


「そうそう、現金化とはちょっと違うんだけどさ、こういうのもあるね。ちょっと気になってたんだ」


 沈水がスマホでとあるサイトを表示する。

 今流行のインターネットのフリーマーケットサイトだ。

 リストには、中古の衣類から電化製品まで多種多様に並んでいる。

 中には、どうにも他人から見てゴミとしか思えないような一品まである。


「サイトは手数料を取って仲介するんだけどさ、出品されている商品の中にはちょっと怪しいのもあるんだ」


 検索ワードに文字を入れ、表示を絞る。

 表示されたのは、コンビニで売っているような様々なネットサービスを受けるためのプリペイドカードだ。


「額面より高いじゃないか」


 蘇合がすぐに気が付いたようだ。

 千円のカードなら、200円程度上乗せされている。


「一応、金券の類の出品は禁止されているらしいんだけどね、これだけの量をチェックするわけにはいかないみたいで、よく見るよ」

「額面より高いのはどういうわけだ? 千円なんだろ? コンビニに行けばいいだろ」


 蘇合の言うことはもっともだ。

 価値がはっきりしていて、コンビニで買えるものをわざわざ額面より高く買う必要はない。


 沈水が首を捻りながら答える。


「このサイトでは現金をポイントに替えたものを使うんだ。たとえば100ポイントを手に入れた売り手は、サイトに手数料の10%、この場合は10ポイントを引かれて、90ポイントを手に入れる。これを現金にしたいとき、まとめて自分の口座に振り込んでもらう。そのときに自分の口座が必要なんだ。現金化しないでポイントで売り買いし続ける限りは、サイトに口座を教える必要がない。そういう、口座をサイトに教えたくない人間相手に出しているんだと思う。プリペイドカードなら定形郵便で送れるからね」


 続けようとした沈水を引き継ぐように、零陵が言う。


「サイトに住所を知られるのも問題なのでしょう。利用者間でやり取りするうちは、サイトに口座はおろか住所をも教える必要はありません」


 零陵はすっかり紅茶を飲み干していて、手持ち無沙汰そうにティースプーンを持っていた。


「住所か」


 蘇合が理解した。


「偽物を販売していて売り逃げをする人間の中には海外の業者も多いようです。彼らはサイト運営者の目が行き届きにくくなる深夜に出品をして、数日かけてある程度の売上を上げるとアカウントを削除してしまうと言います。商品の発送のための住所と違い、銀行口座は住民票のある住所を登録しなければいけません。業者ならなおさら、業者の所在地がわかる書類が必要でしょう」


 銀行の取締が厳しくなり、架空口座も作りにくくなった。あっても有効な物は高騰している。

 わざわざそこに金をかけず、それでも現金同等物を手に入れるのには、プリペイドカードに交換するのが手っ取り早いのだろう。


「なるほど。偽物を売るから口座や住所をサイトに明かしたくないヤツと、そんなヤツのために額面より高値で金券を用意するヤツ。魑魅魍魎というか、跳梁跋扈というか、誰が悪人なんだかわかんねえな」


 すっかり蘇合も感心しきっている。


「零陵もこのサイトを使っているのか?」


 フリマサイトに詳しい零陵に興味があったのかと思い、問いかけると、無言で零陵がうなずく。


「ちなみに私は規約違反出品を見つけ次第違反報告をしています」

「規則主義だな」


 零陵は、沈水や蘇合と違い、犯罪者サイドではない。

 立ち位置としては、栴檀寄りだ。零陵は誰に対しても法律に厳しい。

 悪法もまた法なりを地で行くタイプだ。

 唯一法律を破っているとすれば、彼女の持つ所持品の一つが超法規的措置で認められているということくらいだ。


「双方納得しているなら詐欺ではないな」

「沈水も利用しているんだよな?」

「え、あ、うん」


 蘇合の質問に沈水は言葉を濁す。

 出品されているのは女性物の衣服が多い。

 零陵ならともかく、それに手を出す趣味はないはずだ。


「何を買っているんだ?」

「あ、えーと、ガラクタだよ」

「具体的には?」

「中古のHDDとか、ケータイとか……」


 渋々といった顔で、買っているものを白状する。


「他人のデータを抜く遊びも大概にしとけよ」


 呆れて蘇合が頭を掴もうとするが、するりと沈水は避けてみせた。

 沈水はそれらが安いから買っているのではない。

 HDDやスマホは、初期化しても、単純な初期化なら、中のデータを復元することができる。

 復元できないようにするには、何度も無意味なデータを書き込むなどの対策が必要だ。

 そんな対策をしていない不用心な人物からデータを抜いて、中を見て遊んでいるのだ。


「……わかったよ」

「それにしても、よく舌が回るようになったな」

「わーやめろよおっさん」


 くしゃくしゃだった沈水の頭を、横にいた蘇合がさらにくしゃくしゃにかき回す。


「最初に回収室でこいつを見たときマジでもうこいつと意思疎通は無理だと思ったぜ、なんせ喋らないんだからな」

「べ、べつに喋れないわけじゃないし! おっさんが喋り過ぎなんだよ!」

「成長の証が見えておっさんは嬉しいよ。この調子で友達百人できるといいな」

「いるし! 友達!」


 おっさんと呼ばれたのをもう否定せず、蘇合は気の済むまで沈水をなで回している。


「なるほど、そっちもアリか……」


 ぼそりと零陵が二人を見て呟いたのは誰も聞いていなかった。


 蘇合が満足したのか沈水から手を離した。


「あー、クレカといえば、こういう節約方法があるな。飲み会全員分をカードで払って現金で回収して、ポイントを集めるというのがあるが、あれの一歩先を行く方法で、ゴールドやプラチナのランクが高いカードには、複数名で行くと一名分無料になったり、20%割引になったりする店があったりすんだよ、提携先みたいなもんだな。それを使って、回収はきちんと人数分にしてだな……」

「セコい」


 即座に沈水が突っ込む。


「それは詐欺では」


 零陵も呆れた冷たい顔で蔑んでいた。


「役得だろ、役得」


 元詐欺師である蘇合が反論しているが、二人は引いているようだ。


「さてと、戻って報告書でも書くか」


 全員のカップが空になったのを確認した蘇合が、パンパンと手を叩く。


「ん?」


 蘇合が立ち上がったところで、テーブルの隅にあった球体に目を向ける。

 そこにあったのは生まれの星座を選び、百円硬貨を入れてレバーを回すと占いが出てくる機械だった。


「こんなのまだあるんだな」

「占いに興味があるのか?」

「まさか。昔の知り合いがこういうのが好きだったんだよ」


 人を騙す側にいた元詐欺師の蘇合が星座占いを信じるとは思えなかったが、やはり蘇合は興味がないと答えた。


「おっさん何座?」

「ん? 乙女座だが?」

「ふふっ」

「あ、笑いやがった」


 聞いたのは沈水だったが、答えを聞いて笑ったのは零陵だった。


「せっかくなので回してみましょうか?」


 返答を待たず、零陵が手を振ると、その手の中に硬貨が現れた。

 零陵の特技はコインマジックを含めた手品だ。


 零陵は乙女座に合わせて硬貨を入れ回す。


「どうぞ」


 蘇合は転がり出てきたカプセルを渋々受け取り、カプセルの中に納められていた紙切れを見る。


「なんて?」


 横から沈水が覗き込む。


「『なくしたものが見つかります』だってよ」

「よかったじゃん」


 その幸運を告げるはずの結果に、蘇合はなぜか苦い顔をしていた。


「見つからなかった方がいいことだってあるぜ。……まあ、今日は奢りでいい」


 蘇合が真っ先に立ち上がり、レジでクレジットカードを出して会計を済ませる。

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