第6話 真実性の原則⑩
「まあ、妥当といえば妥当だな」
回収室に正式に解散命令が下って数日が経った。
四人は回収室にいた。
閉鎖する前に入室を許されたのだ。
部屋にある資料はすでに持ち出されている。
名残惜しさはなかった。
JMRFは民間企業であるが、国家の肝煎りで始まった事業だ。
それも国家の指示で動いていたはずの馬酔木室長が謀反を起こして行方をくらませてしまった以上、回収室自体の存在をうやむやにしたいというのは誰にも理解できた。
天下りの社長の態度にもそれは見え隠れしていた。
依然として、消えた馬酔木は発見されていない。
JMRFで扱える案件ではなくなった今、彼らに干渉する手立てもない。
警察か、公安か、そういったところが馬酔木の足取りを追うことになるのだろう。
動画は沈水が急いでバックアップを取ろうとしたが叶わず、二度目の再生は不可能だった。
回収室が見過ごしていたのは古物商の宇佐の存在だった。
狛の件のあと、宇佐と連絡を取ろうとした回収室だったが、宇佐の電話は不通になっていた。
渋谷の店に行ったが、すでにもぬけの殻だった。
ショーケースには何もなく、入口にも閉鎖の知らせもなかった。
事件に巻き込まれたというよりは、自ら姿を消したのだろう、と回収室は判断した。
可能性としては、馬酔木に睨まれることを恐れて消えたのか、それとも最初から馬酔木の側にいて、回収室に睨まれることを恐れて消えたのか、そのどちらかだった。
今のところ、判断保留とされている。
「どうするんだ?」
蘇合が他の三人に声をかける。
「俺は、警察庁行きだ。知能犯専門だとよ」
回収室の経歴がある手前、野に放つわけにはいかないと国は判断したのだろう。
「僕は研究室に帰る」
沈水が言った。
沈水は大学生だったらしい、復学するのだろう。
「監視はつくだろうけどね」
「私は指示がありましたので帰国します」
零陵は元々の所属であるアメリカに帰るようだ。
「お前は?」
蘇合に振られた栴檀が小さく首を振った。
「特に決まっていない」
「そうか、お前らしいな」
蘇合はそれ以上の追及をしてこなかった。
実際には、栴檀にもオファーがあった。
会計検査院だ。
以前担当した際の検査官が強く推薦してくれたらしい。
戸籍上は死んでいるため、公認会計士に戻るわけにはいかないが、サポート役としてなら検査院に所属することは可能だろう。
偽とはいえ経歴はあるため、試験を受け直して資格を取り直すこともできるかもしれない。
「それじゃ、もういいか。進めてくれ」
最後の言葉を栴檀に言わせようとする。
「状況を整理しよう……」
いつもの声で栴檀が言う。
「回収室は解散した。それぞれ各自の持ち場に」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます