秋の空は高すぎる 8

 僕たちが廊下に出て彼女たちに会うや否や、わんわん泣き出した。

「せっかくがんばったのにー」

「みんなでいっしょうけんめいかんがえたのにー」

「さとうのふくろがやぶられてー」

「きょうのぶんぜんぶおじゃんなんてー」

 あまりの号泣っぷりに優しくなだめながら人のいない廊下まで連れて行った。

 辛抱強く詳細を聞くとこういうことである。

 まず、彼女たちは女子ラクロスサークルポケットのメンバーである。

 彼女たちは大学祭でサークルの運営費と合コン代を稼ぐためにえるわたあめという出し物を企画したのだという。映えるわたあめというのは、彼女たちの撮った写真を見せてもらう限りでは、白い綿あめに着色料を混ぜて発色させた綿あめをくくりつけ、グラデーションになるように作った綿あめのことらしい。

 1日目はSNSで大好評、飛ぶように売れたという。

 2日目も11時前、僕らがクイズ研究会の悲鳴を聞く直前くらいだ、までは彼女たちの文言を借りると映えるわたあめは売りに売れて絶好調、のはずだった。

 売り子の1人がザラメが入った袋に穴が開いていることに気付き、それを処分して新しいものを使おうとした直後だった。

「これも破れてるんですけど!」

 何と別の袋にも穴が開いていることを発見した。それだけでなく。

「つーかこれって、縦にすーって入ってない?」

 すべて確認したところ、積み上げてあったザラメの袋に縦一直線の切れ目が入れられており、テントにあったザラメすべてがおじゃんになってしまったらしい。

「とても貧乏くさい話ですが、無事だった部分だけ使うというのは?」

「一部分にアリがのぼってっちゃったから――」

 また彼女たちは泣き出してしまった。すべてアリのえさになるか回収して処分するかの二択を迫られたらしい。

 そして、やはりカードが落ちていたという。

 念のためテントの様子も確認したいというと泣きはらした目で彼女たちはテントへと連れて行ってくれた。今日は再開を見送り、明日から営業するという。

 はっきり言うと、ザラメの管理はかなりずさんだった。さすがに一日終わるごとに部室にしまい込んではいたものの、見張りがついているわけでもなく、裏からこっそりカッター等で切りつけることは可能だったのではないかと杏奈さんは見立てた。

 厳しいことを言われた彼女たちは僕たちに泣きついてきたが、尽力します、とだけ残して僕たちは立ち去ることにした。

 彼女たちの姿が見えなくなった辺りで、僕は杏奈さんに話しかけた。

「カードに書かれていたのは、どんなことだったんですか」

 杏奈さんは一枚ずつ見せてくれた。

 クイズ研究会オーシャンの方は『法人税』、裏に『1』『ポ』

 女子ラクロスサークルポケットの方は『エンゲル係数』、裏に『7』『ア』

 暗号の法則性はまったく読めない。

 ただ、おそらく犯人はブーツの女性ではないだろう、くらいしか言えなかった。ただでさえ閑古鳥のクイズ研究会にお客さんも含めて外部の人間が入ってきたら気付くだろうし、第一彼女だったら、ワンダーフォーリッジ、SOUND LIFEのポップロックス、コンパスとどうつながるのだろう?

「私も彼女ではないとは思います。このボタンはクイズ研究会のみなさんしか知らない場所に置いてあったのですから」

 杏奈さんもそれは肯定してくれた。

「……何だか疲れちゃいましたね……」

 ふらりと杏奈さんの肩に寄り掛かる。こんなことだめじゃないか。僕と杏奈さんはそういう関係じゃないんだから……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る