第3話「感受性」

最後に、私の好きな詩と和歌をいくつか紹介させてください





■はつ恋 島崎藤村


<現代語訳>


まだ前髪を上げたばかりのあなたが、

林檎の木の下にあらわれた時、


その前髪にさしている櫛の花飾りのように

花のように美しい人だと思いました


あなたは優しく白い手を伸ばして

林檎をわたしにくれました


わたしはその時はじめて人を好きになりました


何気なくもらしたわたしのため息が

あなたの髪にかかって揺れた時

恋をする素晴らしさを

あなたのおかげで知ることができました


林檎畑の木の下に

逢瀬を重ねるうちにいつの間にかできた細道は

「いったい誰が踏んでできたのでしょう」と

お聞きになるあなたの様子が、

とても可愛らしく愛おしい




■赤染衛門 ~百人一首より~


やすらはで 寝なましものを さ夜更けて

かたぶくまでの 月を見しかな


<現代語訳>

いらっしゃらないことがはじめからわかっていたなら、ためらわずに寝てしまったでしょうに。今か今かとお待ちするうちに夜も更けてしまい、西に傾くまでの月を見たことですよ。




■山川登美子


<現代語訳>


わたしは今白百合の花に顔をうずめています

ただ、あなたのことを想いながら




■伊勢物語 第十一段 


忘るなよ ほどは雲いに なりぬとも 空ゆく月の めぐり逢ふまで


<現代語訳>


忘れないでほしい お互いに遠く隔ててしまっても 空をゆく月が再び同じところにめぐってくるように 私たちも再びめぐり逢うまでは・・・




■静御前


しづやしづ しづのをだまき くり返し 昔を今に なすよしもがな


<現代語訳>

静よ静よと繰り返し私の名を呼んでくださったあの昔のように懐かしい判官様(義経)の時めく世に今一度したいものよ



吉野山 峰の白雪 ふみわけて 入りにし人の 跡ぞ恋しき


<現代語訳>


吉野山の峰の白雪を踏み分けて姿を隠していったあの人(義経)のあとが恋しい

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孤独を慈しむ @erina

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