第6話 最低マスコット

気付けば私は『魔法少女』を呼ばれる存在になっていた。

なっていた、というのは自分でもあまり実感が湧いていないからで、まるでまだ夢でも見ているような気分でいる。


今日は私を魔法少女にした張本人であるマスコットと買い物に行くことになっていた。正直、彼には感謝している。今まで自分以外の全てに関心の無かった退屈な私を誘ってくれたのだから。


今考えてみると、あの日の私はきっと何かに反抗したかったのだろう。

授業に出ることも嫌だった。全て、ではないがほとんど理解している内容もつまらない教師の話も含め学校があまり好きではない。だから、熱っぽいといい教室で体育の授業をさぼっていた。何度も読んだ小説をまた読むつもりはないし眠くはない。突っ伏して終わらせてもいいがそれではつまらない。


そんな退屈な時間にソレは飛んできた。

最初は全く見つけられなかった。後から聞いた話だが驚かせたくなくて透明になっていたらしい。

確かにかなり大きい人形が飛んでいて、しかもこっちを見ていたら誰だって驚くだろう。


窓を叩いている。

きっと開けてと言っている筈。でも、これを入れてどうなるの?

そう考えると馬鹿らしくなって無視しようとも考えた。

すると例の人形は窓に文字を書き始めたあまり上手ではないし反対向きなので分かりづらいが開けてほしいということだと思い窓を開けた。


開けることできっと何か非日常を届けてくれるのではないかなという思いと好奇心から。


そして開口一番に下手糞な作り笑いで挨拶をしてくれた。

もっと高くて綺麗な声だと思っていたのに一瞬で裏切られる。昔、何かで見たアニメでは語尾に変な言葉をつけている動物がいたけれどこれとは全く違うようだ。


「もし良かったら一人でいる理由を聞かせてくれないかな」

普通このようなことから会話は始めないし、聞かない。大概ほかの大勢と違う動きをしている人間には何かしらの理由があるがそれは基本的にマイナスの物だから。


「嫌……」

そんな言葉しか出なかった。なんと言って良いのか分からないしそもそも目的が謎。走ったら逃げられるかということばかりを考える私に人形は追撃を掛けた。


「なら、名前を教えてもらっても良いかな?」

新手の変質者なの?

とでも言って欲しいのだろうか。

大体、物事には順序がある。この生物かどうかも分からないものはそんな常識も知らないのだろうか?


「こういう時は自分から名乗るものじゃないの?」


そう私が言って数秒もしないうちに答えが出てきた。

あまりに突然、しかも早口でうまく聞き取れなかったが一つだけ分かった。


元は人間だったということ。

状況からして次は私の番だろう。私は名前を教えた。偽名でも思いついたら教えていたかもしれないが名札で苗字も分かるだろうからやめた。


でも目的が謎で正直なところ薄気味悪い。

なぜ話すのかも分からないしずっと浮いているのも世の中の物理法則に沿っていない。


「じゃあアリサ。お願いがあるんだ」

この際呼び捨てなことは置いておいて行動の目的が知りたかった。

きっと死ぬまで忘れないだろう。こんなことを言われるのは人生で初めてだし今後一度もないだろう。


「魔法少女になって貰いたいんだ」

私の欲しかった刺激が満たされるような気がして詳しく説明をもらい私は舞風 亜理紗としての生活を終わらせてアリサとして生きることになり私は人を糸で操れる能力を手に入れた。



案内してもらった屋敷は大きいし立派でこの生物がますます分からなくなった。

でも、何日か暮らしているうちにこの生物について少しのことを知れた。


まず、基本的に変態で馬鹿。少しばかりマゾが入っていて、でも私のことを常に気にかけてくれている。

だから私が馬鹿というと喜ぶ。どうやら感謝として受け取って貰えてるらしい。わざわざお礼を言わなくても良いから少し、ほんの少しだけ助かる。



でも彼は死んでしまったように目を覚まさない。

戦いで酷い傷を負った身体はすぐに治っていていたから大丈夫だと思っていたのにもう三日が過ぎる。

最期に言った言葉は中々かっこ良かった。でもそれで死んじゃうのは最悪。そう思うとなぜか悲しくなってくる。今まで関わった人間の中で時間にしたらすごく短い部類だけど内容が濃すぎて忘れられない。


きっとまだ目覚めていないだろう。

そう思って私は彼を寝かしてある部屋へ行った。

今になってもっと話したかっただの一緒にいたかっただのというのは、まさに後悔だ。


無駄に広い屋敷の廊下に私の足音が響いた。

向こうから足音が聞こえたらと思うが静まり返った廊下が続くだけだ。


暗い部屋の前まで来て涙を拭う。

もし起きていて私を馬鹿にしてきたら嫌だから。そんな希望の表れかもしれない。


前を向くと開けたままのドアから何かが飛び出してきた。

人型かもしれないと身構えたがそれは最高の方向に裏切られる。


見慣れた少し汚れている人形。

せっかく拭いた涙がまた流れそうになるのをこらえて言った。


「この、クソ……。最低マスコット。目が覚めたなら言いなさいよ。馬鹿!」

するといつもの拍子でありがとうが聞こえた。


「走馬燈だからな」


「走馬燈? 現実よ、少なくとも私の中では……」


しかし、まだ寝ぼけているのか自分が死んだと思っているらしく言っていることがおかしい。




「当たり前でしょ、誰が勝手に死なせるのよ。あんたもう三日も寝ててずっと心配してたんだから」

本当は一から全部説明したいけどそんなことしたら平常心を保っていられなくなるだろう。

だから手短に話す。


すると何故かごめんなさいとすごく申し訳なさそうに言われた。

誰も謝って欲しくなんかないのに……


「ごめんなさいじゃなくて、ありがとうって言いなさいよ、このクズ……」


「ありがとう」


「約束しなさい、もう二度と一人で居なくならないって!」


「あ、ああ。絶対守るさ」


「それと、時間がある時で良いから貴方について教えなさい」


「それは、どういう?」


「どういうも何も、私と話しなさいって言ってるの。気付きなさいよ、馬鹿……」

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