第4話「夢」
高校3年生になり、周囲は進路の話で持ち切りだったが、私はどこか現実味のない話のように感じていた。
本当はやりたいこと、進みたい道があった。
「人の役に立つような文章を書きたい」
「ジャーナリストになりたい」
ずっと抱いていた夢だった。
高校卒業後にすぐに就職するという進路は、家の金銭的な事情もあったのだが、私にとって一番怖かったのは、目指していた学校にはプレゼンテーションの授業があるということだった。
そのことを考えるとどうも足がすくみ、動悸が激しくなる。
(無理だ…。私には無理だ…。)
周りの友達はどんどん人生のステージのコマを進めているのに、私はなんだろう。
本来なら挑戦してたであろう明るい未来図を想像すると、ただ悔しくて悲しくてたまらなかった。
早く卒業したかった。学校という息苦しい場所から逃げ出したかった。
このような状況下の中、いつしか季節は巡り、卒業シーズンがやってきた。
卒業が迫ったある時、自宅近くのコンビニでアルバイトを始めることにした。
卒業後は札幌のアパレルショップに販売員としての就職が決まっていたので、少しでも事前にお金を貯めようという思いからだった。
だが、ここで今まで経験したことのない違和感を感じることになる。
何の前ぶれも無く接客中に「あれ?声が出にくい」と感じた。
「いらっしゃいませ」の「ませ」が言いづらく、締め付けられるような声になる。
普段の日常会話などではそういった症状は出ないのだが、「いらっしゃいませ」や「はい」や「~円が1点」などの決まりきったフレーズになると、文末の言葉が思うように出てこない。
声が震えるといった感覚ではなく、詰まりのある、とにかくおかしな話し方である。
出ない声を振り絞るように出すので、不自然なところでブツブツと文章が途切れ、言葉がスムーズに出てこない。喉が締め付けられるような感覚。息もまともに吸えなくて、そんな状況で頑張って声を出し続けるため、バイトが終わる頃には、疲れ切ってしまうのだ。
何かおかしい。
今まで感じたことのない感覚。
確かに今までは、人前での発表などの場面に対し、異常なまでの恐怖感で悩んできたが、症状が出る状況は「発表」「本読み」など、人前での場面に限られていたはずである。
緊張も恐怖感もないこの状況で、声が出づらくなるはずがなかった。
悩んだ末に、
「声が出づらくなってる。絶対におかしいから病院にいきたい」と母に訴えたのだが、母は、またか…というため息をつき、「全然不自然じゃないよ。気にしすぎだよ」とまともにとりあってくれなかった。
最初は内科に行った。
だが異常はなく、風邪すら引いていなかった。
けれど、バイトの接客になると声が出ない。
今度は耳鼻科にいった。
鼻から胃カメラのようなチューブを入れ検査した。また異常なしだ。
「精神的なものが影響しているのかもしれないので、精神科へ行って下さい」
また、精神的なもの?私は一体どうなってしまったのか。
バイトはやめた。
先生が異常はないというのだから、異常はないのだと思い、しばらく病院にかなかった。
しばらくすると、日常会話はまた話せるようになっていった。
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