第6話「島の逸話」
祖父は、漁師の家の出身です。
小さい頃、悪さをすると、
「地獄に連れていくぞ!」とよく大人に叱られていたそうです。
利尻島でいう「地獄」というのは、地平線のことを指します。
正確には、海にたたずむ大きな崖の先のこと。
信じられないような話ですが、当時の島民は、地球が丸いという事を知らなかったそうで、目に見える範囲より先は、大きな穴があいていると信じられていたそうです。
その穴はとてつもない長さだそうで、落ちてしまった人はどんなに泣き叫んでもわめいても延々落下し、ようやく行き着いた先には閻魔が統べる地獄に繋がっていると恐れられていたとか。
祖父>
「大きくなってからよぅ、船に乗って確かめにいったんだ。なんのことはない。海が広がっているだけだった。今考えると、なんであんな話を信じてたんだべなぁ。」
私>
「子供は皆信じていたの?」
祖父>
「信じていたさ。大人だって信じていた人もいたよ。昔は子どもも多くてな。富国強兵っていって、産めよ、増やせよの時代だ。富国強兵って書かれた旗があちこちに掲げられてな。子供は宝だって言われていたな。女は子供を産むのが仕事だ。だから子供ができない女にとっては可哀想な時代だったなぁ。」
私>
「今は、結婚しない女の人も多いしね。」
祖父>
「子供が少ない世の中になったな。女性が働きに出ることに反対する訳じゃないんだけど、子供を産むってのは女性にしかできない神聖なことだからなぁ。でも、時代が違うんだべな。」
私>
「…。」
戦時中、
東京では食料不足で苦しむ民衆が多かったようですが、
利尻島の実家では「生産者」という立場であった為、
貧しいながらも多少の食べ物は確保できていたようでした。
とはいっても、海産物以外はどうしていたのでしょう。
私>
「米とかはどうしてたの?」
祖父>
「本当は禁止されていたんだけどな。秋田県や山形県から、米や山の幸を積んだ小さい船がよくやってきてな。物々交換をしたんだよ。大きな60kgの米俵の代わりに、利尻昆布やらウニやら海の物をどっさり入れてやるんだ。皆やってたよ。」
戦争が終わると、
祖父は利尻島に帰り、家業を継いだ。
おばあちゃんと結婚したのも、その頃だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます