第5話「敗戦」

祖父は後に、自分が経験したあの日が、世にいう「東京大空襲」と呼ばれる日だと知ります。



夜が明けると、


東京の街は、一面が焼け野原になっていました。




隅田川には、水の流れをせき止めるほどの遺体が、山積みになっていたそうです。




祖父>


「空襲で川に飛び込んだ人たちをな、B-29は標的にしたんだ。苦しかっただろうな。あれだけの人がたった数時間で犠牲になるなんて。夢でも見ているようだったよ。夜が明けると、世界が変わっていたんだからな。」



街には、


死んだ子供を抱えたままうつろな目で歩きさまよう母親の姿や、


腕から皮膚が垂れ下がった被弾者、


爆風で、髪も着物もぐちゃぐちゃになった人であふれていました。




祖父が大切に集めていた、神保町の古本もこの時全て燃えてしまいました。







終戦の放送は、上野公園で聞いたそうです。



祖父>


「よく写真がなんかではな、天皇の放送を皆がうなだれながら聞いてるだろう?けどな、その放送を聞いたからといって理解できる一般の民衆は、あまり居なかったんだよ。皆、何のことを言っているか分からず、きょとんとしていたもんだ。」





日本は負けました。






こうして、


祖父の第二次世界大戦は終わりました。










余談ですが、


戦時中祖父は、長野県のとある牧場に行ったそうです。




そこで、驚きの光景を目にします。



牧場の経営者の家を訪ねると、家の中から経営者の娘さんが、カントリー調のドレスを着て出てきたそうです。



アメリカに関するものはご法度の時代。



祖父は驚きつつも、まるで夢の国にでも来たかのように、自由で楽しい時間を過ごしたようです。



当時の牧場での写真が残っています。


いつか、私も訪れてみようと思っています。








戦争が終わると、祖父は利尻島に戻り、漁師となりました。

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