第4話「後輩の死」
その日の空襲はいつもと違いました。
B-29の爆撃は凄まじく、工場で作業をしていた祖父は、なんとか被弾しないように身を隠しながら、机の影に隠れていたようです。
頭上では、敵の戦闘機が飛び回り、爆弾を落としていきます。
そのたびに土煙りが舞い、辺り一面を覆っていました。
視界は悪くなるばかりです。
祖父は暗闇の中、安全な場所を求め、ほくふ前進で命掛けで逃げていました。
ふと、顔をあげると、
必至で逃げ回る、後輩の花子ちゃんの姿が見えました。
花子ちゃんの位置は、敵の飛行機から丸見えです。
このままではやられてしまう!と焦った祖父は、
大声で叫びました。
祖父>
「花子ー!何をやってるんだ!俺だ!こっちへこい!!」
花子ちゃんは、敵の戦闘機の様子を伺いながら、
えいっ!と、一目散に祖父の元に駆けてきたそうです。
花子>
「先輩!」
祖父>
「無事だったか!よーし!一緒に逃げるぞ。」
花子ちゃんを引き連れて、前に踏み出そうとした瞬間、
祖父たちが隠れていた場所のすぐ傍に、爆弾が落ちました。
祖父はとっさに花子ちゃんを脇に抱きかかえます。
至近距離に落ちた爆弾の勢いは凄まじく、必死に飛ばされないように、踏ん張りをきかせたそうです。
爆弾のはじける音が一時的に耳を麻痺させ、しばらくすると、辺りは静寂に包まれました。
暗闇の中、祖父は花子ちゃんに話しかけます。
祖父>
「おい!花子!大丈夫か?」
花子ちゃんの返答はありません。
暗闇の中では、花子ちゃんの様子を確認することもできません。
祖父は必死に花子ちゃんに呼びかけたそうです。
花子ちゃんを抱きかかえると、祖父の手に何か冷たいものが付着しました。
(これは、なんだ…?)
その時、
窓の外に見えた月明かりによって、
花子ちゃんの姿が少しずつ、少しずつ照らされました。
そこにあったのは、
後頭部が
吹き飛ばされた花子ちゃんの姿。
祖父が触ったのは、辺りに飛び散った花子ちゃんの脳みそだったようです。
花子ちゃんは、
爆風によって防空頭巾が途中で脱げてしまったようでした。
それにより、爆撃の衝撃で飛んできた建物の破片から、頭を守ることができませんでした。
祖父>
「おじいちゃん今でも後悔している。あの時、俺が呼ばなかったら、花子は死ぬことなかったんじゃないかって。おじいちゃんが花子の寿命を奪ってしまった。花子が可哀想で可哀想で、今でも思い出す。あんなに若くに死んでしまうなんて、花子が可哀想だ。」
花子ちゃんの事で苦悩する父に、会社の先輩がこういったようです。
先輩>
「味噌君。花子が死んだのは、味噌君のせいではない。自分のせいだと心を痛めていては、この時代を生きていけないぞ。これが戦争なんだ。こうゆう時代を俺たちは生きているんだ。」
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