第11話 消防士ヒーローの本懐
過去を乗り越え、その道へ誘ってくれた「救済の遮炎龍」にしがみつき、真里は紅い腕の中で涙ぐむ。
そんな彼女の鼻と口を、白マフラーで塞ぎつつ、彼は脱出を目指した。だが、窓に続く道は立ち昇る猛火に阻まれている。
「ハッ!」
だが、彼は消防能力に特化した「救済の遮炎龍」。いかに激しい炎であろうと、それ以上に強力な消火剤で押さえつけられては、人間を焼き殺すには至らない。
「盾型消火銃」に内蔵されたインパルス消火銃の一閃が、灼熱を根元から吹き消して行く。
やがて熱気が消え去り阻むものが黒煙だけになると、「救済の遮炎龍」はマフラーで真里の気道を保護しながら、暗視装置を頼りに窓から飛び出して行った。
そして、壁に打ち込んだワイヤーを伝い、さながらターザンのように鮮やかに着地する。出迎えたのは、満面の笑顔を浮かべる恵だった。
「真里ぃぃぃいぃい! バッキャロォ、心配させやがって!」
「恵、恵ぃい……!」
「もう大丈夫、もう大丈夫だからな! ありがとう才……じゃねぇ、『救済の遮炎龍』! 本当に、本当に恩に着るっ!」
恵は「救済の遮炎龍」に抱き上げられたままの真里に泣きつき、身の安全を感じた真里もまた、緊張の糸が途切れたように大泣きしていた。
そんな彼女達を静かに見守る「救済の遮炎龍」こと幸人は、首を捻り火災が絶えない旧校舎を見上げた。
「……あは、あはは……。もう、泣きすぎだよ恵ったら」
「ははは……うるせー、泣いて何が悪いっ。……ん? 真里、なんかお前濡れてねぇ?」
「えっ……や、やだっ! 『救済の遮炎龍』さん早く下ろしてくださいっ!」
羞恥に顔を赤らめる真里。そんな彼女を優しく下ろして、幸人は腕部に装着された機械のボタンを操作する。
『Scarlet Ranger!!』
その操作が終わり、腕部の機械から電子音声が響く……刹那。
「うわぁ! な、なにあれっ!」
「あ、あれは……!」
猛スピードで敷地内を疾走し、幸人達の前まで駆けつけてきた一台の車。運転席が無人の、その赤塗りの車に、恵は見覚えがあった。
一見すれば、スポーツカーのようにも見えるしなやかな車体だが、後方に設置された梯子やポンプらしきものは、紛れもなく消防車のものだった。
幸人は無言のまま、その車両……「|
放たれている水そのものに特殊な消火剤が含まれているようであり、旧校舎を蝕んでいた炎は、素人目に見ても異常に感じるほどの速さで鎮火されていった。
「す、すごい……わたし、『救済の遮炎龍』さんの活躍、ちゃんと見るの初めてかも……」
「あ、ああ、確かにすげぇな。……つーかアイツ車乗ってるけど、免許あんのか?」
「え?」
「い、いや何でもねぇ」
「……?」
不思議そうに首を傾ける真里の隣で、恵は鎮火に勤しむ「救済の遮炎龍」の――幸人の姿を、誇らしげに見つめていた。
うなだれる美夕達には目もくれず、その瞳は自分の心を射止めた男だけを、焼き付けている。
(……ありがとうな、才羽。真里のこと、ちゃんと守ってくれて。……やっぱ、やっぱさ――)
その気持ちには、もはや言い訳の余地はない。
救援に駆け付けた生徒会や有志の生徒達が、バケツリレーの消火活動を始めても。美夕達が他の生徒会役員達に連行されても。
鎮火が終わった途端、目をハートにして飛びついてきた琴海をかわし、「小型高速自動消防車」で走り去る瞬間まで。
(――あんたのこと、好きだわ。もう、誤魔化せないくらい……)
恵の熱い眼差しは、「救済の遮炎龍」の――才羽幸人の勇姿だけを、映し続けていた。これで最後だと、頬に雫を伝わせて……。
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