誰がために

「桜井さん!!」


お近づきになれる、そんなことはどうでもよかった。

ただ全力で走る。速く、速く!


「桜井さん!」


勢いよく膝からスライディングして血が出るのも厭わなかった。


顔が青白くて荒い呼吸をしている。

どうしようどうしようどうしようどうしたら、


「田中!救急車呼んで!!」

「お、おう。わかった!」


無闇に倒れた人の体を揺すっちゃダメだって聞いたことがある気がする。

手、そうだ手を...!


「桜井さん大丈夫!?しっかり...!」


冷たくて小さな手だった。


「桜井さん...」


自分を落ち着かせるための言葉でもあった気がする。


....


産まれて一番長い間何かを待った気がする。実際にはすぐに救急車は来たのだろう。だが俺にとっては長かった。


「桜井さんは大丈夫なんですか!?」

「ええ、その為の私達ですから。...一緒についていてあげてください。症状は貧血のようですが、ついていてくれる人がいるというのは心強いものですから。さぁ」


そんな消防隊の人の言葉を聞きながら救急車にのって病院に向かった。手を握ったまま。

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