第2話 酒+振動

 馬って、凄く揺れる。

 ううう、わたし、車酔いする方なんだけどなあ!


「きもちわるい」

「はァ!?」


 喉が痛いほど叫んだかいあって、シルエットオブ騎士な人はすぐにわたしに気がついてくれた。

 のは、いいんだけど、すごく不審な顔でじろじろと上から下まで舐め回すように見られて、気分が悪い。ともかくも、気がついたらここに倒れていたのだと訴えたところそのまま、すっさまじいしかめっ面ではあるものの騎士的な人はわたしを馬の前に乗せたのだった。

 わーすてき☆ とか言えたら良かったんだけど、結果がこの馬酔いなのでどうしようもない。

 だって! 前向いて座りたかったんだけど!

 馬をまたごうとしたら「はしたない」とか言い出すんだもん騎士的な人!

 じゃあどうやって座れって言うのよ、って言ったら横すわり、とでも言うんだろうか。自転車の二人乗り(※やっちゃだめだよ!)で荷台に座るのに進行方向に横むいて座って足閉じるような、そんな姿勢をしろっていわれて。やってるんだけど、めっちゃ腰ひねるし。痛いし。で、そのわたしのうしろに騎士的な人が座っていて、腰を掴まれている。

 電車の中だったら痴漢だなんだと喚いてみたい状況だけど、下心のまるでない掴み方はなんていうか、犬が猫の子運んでるみたいな、落ちないようになのか逃げないようになのか、無造作感があふれている。逃げないようにの気がするなー。

 うしろを向いた日には胃の中のものが逆流しそうなんで振り向いたりはしないけれど、どうもこの騎士的な人、彫りの深い顔立ちをお持ちの若いイケメンさんで、婚活帰りなわたしとしてはなんかこうちょっぴり居心地とかそういったものがよくない。

 ……いや、わかりやすく中世ヨーロッパ! なイケメンだったら、まだこう、映画村みたいなものかなーとか思えたんだろうけれど。ちょっとこう、もやもやする。確かに彫りは深いんだけど、中東風……なのかな、顔立ちは。問題は髪の色。

 まさかの水色。一瞬コスプレかと思ったけど、まつげとかもその色で、しかもどう見ても染めてない。

 気になる。でも振り向けない。うああジレンマ!

 そんなもどかしいこっちの気持ちなんてまったく知ったことないと言いたげに、騎士的な人は手綱を握っている。


「もうすぐ詰め所に着くんだ、それまで我慢してくれ」

「……だめおろしていったんちょっと、ぅぇぇぇぇ」

「うわああ! ちょ、ちょっと耐え――」


 ★しばらくお待ち下さい★


 うーん。頭はしっかりしてるんだけどね。

 お酒入ってるからね、わたし。

 騎士的な人はあわあわしている。馬に被害がなかったことは救いだったかなー、とだけ思った。

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