冬場のシャワー

@bananayui

第1話

冬場のシャワーは辛い。だが、それを常に選択肢のひとつにおかねば、光熱費が高騰してしまう。

貧乏が不自由であることを私は十年かけて体感している。

そう。体を通して、感じている。

貧乏の凄いところは、体験できることだ。お金をかけることなく、骨身にしみて、感じられることだ。

湯船に入ることのできない、冷えた体を包む、フェイスタオルのごわごわした質感。バスタオルではない。

地方銀行の名前が捺された、洗いに洗われ、繊維が冬の樹氷のように毛羽だった古いタオルは、私の裸前面しか隠せない。

包むといえど、バスタオルのように私を抱きしめてはくれない。

痩せた、貧相な私の体躯の前を隠してくれるだけの容量しかもっていない、古タオル。

私は湯船の底の、底に沈んでゆく、髪の毛をじっと見つめてみたい。

全身をお湯で包まれることは、幸せなことです。

そう。

貧乏は凄い。

幸福を気づかせてくれる。

あたたかな水に包まれることは、冬の至福である。



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